研究課題/領域番号 |
17K09643
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
横山 知行 群馬大学, 大学院保健学研究科, 教授 (70312890)
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研究分担者 |
前野 敏孝 群馬大学, 大学院医学系研究科, 准教授 (00436297)
須永 浩章 群馬大学, 大学院医学系研究科, 研究員 (10760077)
松井 弘樹 群馬大学, 大学院保健学研究科, 講師 (20431710)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 遊離脂肪酸 / 肺気腫 / Elovl6 / Sestrin |
研究実績の概要 |
ELovl6は脂肪酸鎖長を延長する酵素で、細胞内での脂肪酸の動態を制御する重要な因子である。このことは、Elovl6活性の亢進または低下によって、細胞内の脂肪酸組成のバランスが変化すると、飽和脂肪酸あるいは一価不飽和脂肪酸による過剰な反応さらには細胞障害を引き起こし、疾患の進展に深く関わっていると考えられる。したがって、肺胞上皮での飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のバランスが肺線維症および肺気腫の発症、進展機序に重要であると考えられる。 申請者らは肺におけるElovl6の発現および病態意義について検討を行った。その結果、Elovl6はⅡ型肺胞上皮細胞に発現が認められ、Elovl6欠損マウスにブレオマイシンで肺線維症モデルを作成したところ、野生型マウスと比較して著明な肺線維症の増悪を認めた。さらに、大変興味深いことに、Elovl6欠損マウスでは間質の線維化だけでなく、肺胞の破壊による気腫性変化も伴っていた。 そこで、野生型マウスに対して、マウス用喫煙曝露装置により2ヶ月および6ヶ月間、喫煙曝露を行うことで、肺気腫モデルマウスを作成し、このマウスにおけるElovl6の発現と脂肪酸組成について検討を行った。免疫組織化学染色の結果から、喫煙曝露2ヶ月の標本では、Ⅱ型肺胞上皮細胞におけるElovl6の明らかな発現増加が認められたが、喫煙曝露6ヶ月の標本では、2ヶ月の標本と比較すると発現は減少し、喫煙無処置の標本とほぼ同等のElovl6の発現レベルであった。 6ヶ月喫煙曝露させたElovl6欠損マウスで肺気腫病変が増悪したことから、その機序を明らかにするため、野生型マウスとElovl6欠損マウスをRNAシークエンスにより、遺伝子発現の網羅的スクリーニングを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
野生型マウスとElovl6欠損マウスに喫煙曝露し、RNAシークエンスにより、遺伝子発現の網羅的スクリーニングを行い、病態に重要な遺伝子群を検討する。 野生型マウスに対してElovl6欠損マウスで発現が著明に増加している上位40位までの遺伝子で、Serpina1a, Serpina1b, Serpina1c, Serpina1d, Serpina1eという遺伝子が、非喫煙、喫煙曝露のいずれにおいても、Elovl6欠損マウスで著明に発現が増加していることが明らかになった。SerpinA1はα1-アンチトリプシンと呼ばれ、α1-アンチトリプシン欠損症は遺伝性の肺気腫を引き起こす唯一の疾患として知られる。α1-アンチトリプシンは主に肝臓で産生されるため、肺でのSerpinの発現と病態との関連を明らかにするためにはElovl6の発現をII型肺胞上皮特異的に欠損したコンディショナルノックアウトマウスの作成が欠かせない。 このコンディショナルノックアウトマウスを作製するため、SP-C promotor-Cre rtTA トランスジェニックマウス(Cincinnati 小児病院, Jeffrey A.Whitsett 教授より譲渡)と、Elovl6 flox マウス(筑波大学, 島野仁教授より譲渡)を交配して、ドキシサイクリン誘導型のⅡ型肺胞上皮細胞特異的Elovl6 欠損マウスElovl6を作製し、現在、繁殖中である。コンディショナルノックマウスの作製にあたって、自然受精が成功せず、人工授精による繁殖を開始した。また、肝臓特異的Elovl6欠損マウスを筑波大学より譲渡して頂き、本学で繁殖する必要もある。さらに喫煙モデルマウスの作製に6ヶ月を要する。従って、本研究の主要課題である遺伝子改変動物による実験が当初の計画より遅延しているため、研究費の使用も一部、平成31年度に繰り越しとなっている。
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今後の研究の推進方策 |
1) II型肺胞上皮特異的にElovl6発現を欠損したコンディショナルノックアウトマウスを用いて、肺でのSestrinの発現局在/AMPK活性/mTOR活性と脂肪酸分画、酸化還元状態および病態との関係を比較検討する。 ドキシサイクリン誘導型のⅡ型肺胞上皮細胞特異的Elovl6 欠損マウスとマウスとコントロール動物に長期喫煙曝露により肺気腫モデルと肺線維症モデルを作製し、肺組織中の遊離脂肪酸分画とリン脂質量、Elovl6、SP-CおよびSestrin1,2,3の発現と、肺気腫や肺線維症のマーカーとなる遺伝子群を定量する。さらに、 Sestrinによって制御され、蛋白合成に需要なPI3K/Akt/mTOR経路と細胞周期、細胞老化に重要なAMPK/p53/p21経路を遺伝子発現を測定する。 2) II型肺胞上皮特異的にElovl6発現を欠損したコンディショナルノックアウトマウスおよび肝臓特異的Elovl6欠損マウスを用いて、肝臓でのα1-アンチトリプシン発現、産生とElovl6発現および肺気腫進展への関与を明らかにする。 今後は肝臓特異的Elovl6欠損マウスと、Ⅱ型肺胞細胞特異的Elovl6欠損マウスで、肺気腫病変に差が認められるかを検討する必要があると考える。そこで、肝臓特異的Elovl6欠損マウスと、Ⅱ型肺胞細胞特異的Elovl6欠損マウスに喫煙曝露を施し、α1-アンチトリプシン濃度,好中球エラスターゼ活性と病変の重症度との関連を解析する。次に、α1-アンチトリプシンの発現や活性を規定する責任脂質の同定を行うために、Elovl6欠損マウスの肝臓から脂質を抽出し、リピドミクス解析を行う。考えられる責任脂質を培養肝細胞に添加し、α1-アンチトリプシンの発現や、培養上清中のα1-アンチトリプシン濃度を測定するとともに、発現制御メカニズムを解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
SerpinA1はα1-アンチトリプシンと呼ばれ、α1-アンチトリプシン欠損症は遺伝性の肺気腫を引き起こす唯一の疾患として知られる。α1-アンチトリプシンは主に肝臓で産生されるため、肺でのSerpinの発現と病態との関連を明らかにするためにはElovl6の発現をII型肺胞上皮特異的に欠損したコンディショナルノックアウトマウスの作成が欠かせない。 このコンディショナルノックアウトマウスを作製するため、SP-C promotor-Cre rtTA トランスジェニックマウス(Cincinnati 小児病院, Jeffrey A.Whitsett 教授より譲渡)と、Elovl6 flox マウス(筑波大学, 島野仁教授より譲渡)を交配して、ドキシサイクリン誘導型のⅡ型肺胞上皮細胞特異的Elovl6 欠損マウスElovl6を作製し、現在、繁殖中である。コンディショナルノックマウスの作製にあたって、自然受精が成功せず、人工授精による繁殖を開始した。また、肝臓特異的Elovl6欠損マウスを筑波大学より譲渡して頂き、本学で繁殖する必要もある。さらに喫煙モデルマウスの作製に6ヶ月を要する。従って、本研究の主要課題である遺伝子改変動物による実験が当初の計画より遅延しているため、研究費の使用も一部、平成31年度に繰り越しとなっている。
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