研究課題/領域番号 |
17K09644
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
砂長 則明 群馬大学, 医学部附属病院, 助教 (70400778)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 非小細胞肺癌 / Wntシグナル伝達経路 / 分子標的治療 |
研究実績の概要 |
非小細胞肺癌(NSCLC)細胞41株におけるLGR6 mRNA発現解析をリアルタイムRT-PCR法により行った。βカテニンをコードするCTNNB1遺伝子の変異を有するNSCLC細胞株HCC15において、LGR6が過剰発現していることが検証された。また、KRAS変異、BRAF変異、EGFR変異などのCTNNB1変異以外のドライバー変異と、LGR6発現との関連性について調べたところ、KRAS変異細胞16株中7株(44%)、BRAF変異細胞4株中2株(50%)、EGFR変異細胞10株中2株(20%)、CTNNB1変異陽性細胞株HCC15以外のKRAS/BRAF/EGFR全て野生型の細胞10株中1株(10%)において、不死化人気管支上皮細胞株HBEC4のLGR6発現レベルよりも2倍以上の高発現を認め、KRAS変異もしくはBRAF変異を有するNSCLC細胞株においてLGR6発現が高い傾向があることがわかった。さらに、小細胞肺癌(SCLC)細胞23株におけるLGR6 mRNA発現解析を行ったところ、SCLC細胞株群におけるLGR6発現レベルは、NSCLC細胞株群のLGR6発現レベルと比較して有意に高いことがわかった。LGR6高発現を示すHCC15において、LGR6 mRNAとLGR6タンパク発現が、small interfering RNAs (siRNAs)によるβカテニンのノックダウンにより有意に低下することが検証された。LGR6高発現を示すHCC15以外のNSCLC細胞株について、LGR6あるいはCTNNB1を標的としたsiRNAにより、各標的遺伝子の発現を効率的にノックダウンするための至適条件設定を行った。抗LGR6抗体(EPR6874;abcan社)を用いて、NSCLC手術検体におけるLGR6タンパク発現解析のための免疫染色法の至適条件設定を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
各肺癌細胞株におけるLGR6 mRNA発現を評価するためのreal-time RT-PCR法に必要なprimerやTaqMan probeの選定と至適条件設定を行った。また、LGR6タンパク発現を評価するためのWestern Blot法に必要な抗LGR6抗体の選定と至適条件設定を行った。さらに、NSCLC細胞株41株、SCLC細胞株23株における至適培養条件の設定を行い、各細胞株におけるLGR6発現解析を完了した。免疫組織染色によるLGR6タンパク発現解析のための抗LGR6抗体を選定し、NSCLC手術検体を用いてLGR6タンパク発現の免疫組織染色の至適条件設定を完了した。βカテニンあるいはLGR6を標的としたsiRNAsを選定し、HCC15細胞株を用いて、βカテニンあるいはLGR6を標的としたsiRNAsにより各標的遺伝子の発現を効率的にノックダウンするための至適条件設定を行った。HCC15において、siRNAsによるβカテニンのノックダウンが、LGR6 mRNAおよびLGR6タンパク発現を有意に低下させることを検証することができた。一方で、肺癌細胞株におけるTCF転写活性の評価に関しては解析途中の段階である。また、HCC15と同じCTNNB1遺伝子変異型であるCTNNB1-S45F変異の発現ベクターについては作成準備段階である。
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今後の研究の推進方策 |
HCC15以外のLGR6高発現を示すNSCLC細胞株において、TCF転写活性の評価を行う。TCF活性の上昇を認めた細胞株に関しては、siRNAsによるβカテニンのノックダウンや、Wnt/βカテニン経路阻害薬であるPRI-724、XAV939により、LGR6発現が低下するか調べる。βカテニンをコードするCTNNB1遺伝子のS45F変異型の発現ベクターを作成し、LGR6低発現かつTCF低活性を示すNSCLC細胞株や、不死化ヒト気管支上皮細胞株HBEC4にベクターを導入することにより、変異型βカテニンの強制発現が、TCF活性やLGR6発現の上昇を誘導するか調べる。以上の実験により、Wnt/βカテニン経路活性化によるLGR6 発現誘導が確認されれば、レポーターアッセイやクロマチン免疫沈降アッセイにより、LGR6 がWnt 標的遺伝子かどうか検証する。さらに、マイクロアレイ解析により、HBEC4 における変異型βカテニン強制発現による発現変動遺伝子群を同定し、既存のHCC15 でのCTNNB1ノックダウンによる発現変動遺伝子群のマイクロアレイデータとの統合解析により、Wnt/βカテニン経路による発現変動遺伝子群を絞り込む。 免疫染色法により、400例のNSCLC手術検体におけるLGR6タンパク発現解析を行い、LGR6 高発現群と低発現群に分類した上で、臨床病理学的因子(年齢、性別、喫煙歴、組織型、病期)、遺伝子異常(KRAS 変異、EGFR 変異、ALK 融合遺伝子)、術後無増悪期間、全生存期間との関連性を調べ、LGR6発現の臨床病理学的意義や、予後因子としての意義を調べる。 CTNNB1変異陽性細胞株HCC15や、それ以外のLGR6高発現かつTCF活性亢進を示すNSCLC細胞株を用いて、siRNAによるLGR6ノックダウンが細胞増殖や生存に与える影響を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
肺癌細胞株におけるTCF転写活性の評価に関しては、現在解析途中の段階である。また、βカテニンをコードするCTNNB1遺伝子のS45F変異型の発現ベクターは未完成である。そのため、これらの実験等に必要な試薬等の使用額が次年度へ繰り越しとなった。次年度では、TCF活性評価のためのTOP Flash/FOP Flashルシフェラーゼアッセイに必要な試薬、発現ベクター作成のために必要な試薬、肺癌細胞株培養実験のための培地や細胞培養用ディッシュ、ベクターのトランスフェクション実験に必要な試薬等の購入に使用する予定である。
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