研究課題/領域番号 |
17K09644
|
研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
砂長 則明 群馬大学, 医学部附属病院, 講師 (70400778)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 非小細胞肺癌 / 肺腺癌 / Wnt経路 |
研究実績の概要 |
抗LGR6抗体を用いた免疫染色法により、210のNSCLC手術検体(腺癌112検体、扁平上皮癌98検体)におけるLGR6タンパク発現解析を行った。LGR6タンパク発現レベルは0から4までの5段階で評価を行い、0から2までを低発現、3と4を高発現とした。肺腺癌の30%、肺扁平上皮癌の5%でLGR6の高発現が認められ、肺扁平上皮癌よりも肺腺癌でLGR6高発現の割合が高いことが示された。 The Cancer Genome Altas (TCGA)のデータベースを用いて肺腺癌と正常肺組織の57ペア検体におけるLGR6発現の比較を行ったところ、腫瘍検体におけるLGR6発現が正常肺組織と比較して有意に高いことが確認された。 肺腺癌において、LGR6発現と、性別、年齢、喫煙歴、病期、ドライバー遺伝子変異(EGFR変異、KRAS変異)、リンパ管浸潤、脈管浸潤、胸膜浸潤との関連を調べた。その結果、LGR6高発現の割合はEGFR遺伝子変異陰性群や脈管浸潤陽性群で有意に高かった。また、リンパ管浸潤陽性群、男性、喫煙者において、LGR6高発現の割合が高い傾向にあった。肺腺癌を、LGR6低発現群とLGR6高発現群に分けて、術後の生存期間を比較したところ、LGR6高発現群の生存期間が有意に短いことが示された。さらに、肺腺癌を、EGFR遺伝子変異陽性群とEGFR遺伝子変異陰性群に分けて、LGR6低発現群とLGR6高発現群とで術後の生存期間を比較したところ、EGFR遺伝子変異陽性群では生存期間の有意差は認められなかったが、EGFR遺伝子変異陰性群ではLGR6高発現群の生存期間が有意に短いことが示された。以上より、LGR6発現は、EGFR遺伝子変異のない肺腺癌の悪性形質の獲得に寄与していることが示唆された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
肺癌細胞株を用いてreal-time RT-PCR法によるLGR6 mRNA発現解析を実施し、beta-cateninをコードするCTNNB1遺伝子の変異を有するHCC15を含むNSCLC細胞株の33%、小細胞肺癌(SCLC)細胞株の65%においてLGR6が高発現していることが確認された。LGR6高発現の割合はEGFR変異陽性NSCLC細胞株で低く、KRAS変異やBRAF変異を有するNSCLC細胞株で高いことが示された。 210のNSCLC手術検体(腺癌112検体、扁平上皮癌98検体)を用いて免疫染色法によりLGR6タンパク発現解析を実施し、LGR6発現と臨床病理学的因子、ドライバー遺伝子変異との関連について解析を行った。さらに、肺腺癌におけるLGR6発現と術後生存期間との関連について解析を行った。その結果、喫煙歴のある男性、リンパ管・脈管浸潤陽性、EGFR変異陰性の肺腺癌でLGR6が高発現しており、EGFR変異陰性かつLGR6高発現の肺腺癌の予後が不良であることが示された。 NSCLC細胞株を用いて、CTNNB1あるいはLGR6を標的としたsiRNAs により各遺伝子発現を効率的にノックダウンできる至適条件設定を行った。CTNNB1変異陽性かつLGR6高発現のHCC15細胞において、siRNAによるCTNNB1発現ノックダウンにより、LGR6 mRNAおよびLGR6タンパク発現が低下することが確認された。HCC15細胞において、Wnt/beta-catenin経路の阻害薬であるXAV939処理によりLGR6発現が低下することが確認された。LGR6高発現NSCLC細胞において、siRNAによるLGR6発現ノックダウンが細胞増殖に与える影響を調べるための機能解析を行い、LGR6高発現NSCLC細胞のin vitro細胞増殖がLGR6発現ノックダウンにより抑制されることが示された。
|
今後の研究の推進方策 |
LGR6高発現NSCLC細胞株の中に、Wnt/beta-catenin経路の構成分子であるAPCの遺伝子変異を有するNSCLC細胞株が含まれていたことから、この細胞株を用いて、siRNAによるAPC発現ノックダウンや、Wnt/beta-catenin経路の阻害薬であるXAV939により、TCF転写活性やLGR6の発現が低下するか検証する。CTNNB1遺伝子変異型発現ベクターを作成し、LGR6低発現NSCLC細胞株や、不死化ヒト気管支上皮細胞株HBEC4にベクターを導入して、変異型beta-cateninの強制発現が、LGR6発現の上昇を誘導するか検証する。TCF転写活性やLGR6発現の高い肺癌細胞株を用いて、レポーターアッセイやクロマチン免疫沈降アッセイにより、LGR6 がWnt 標的遺伝子であるか検証する。免疫染色法によりLGR6タンパク発現解析を行った肺腺癌において、単変量解析や多変量解析により、LGR6発現の予後因子としての意義を調べる。SCLC細胞株においてLGR6高発現の割合が高かったことから、肺小細胞癌20検体や肺大細胞神経内分泌癌16検体の手術検体を用いてLGR6タンパク発現解析を行い、肺の神経内分泌腫瘍におけるLGR6発現の臨床病理学的因子との関連や予後因子としての意義を調べる。CTNNB1変異陽性あるいはAPC変異陽性でLGR6を高発現するNSCLC細胞株を用いて、siRNAによるLGR6発現ノックダウンやWnt/beta-catenin経路の阻害薬が、細胞増殖抑制作用やアポトーシス誘導能を有するか検証する。さらに、これらのNSCLC細胞株において、siRNAによるLGR6発現ノックダウンが、シスプラチン、ペメトレキセド、ドセタキセルなどの殺細胞性抗癌剤、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬などの薬剤感受性に与える影響を調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
CTNNB1遺伝子変異型の発現ベクターは未だ作成中の段階である。また、肺癌細胞株を用いて、siRNAによるLGR6発現ノックダウンやWnt/beta-catenin経路の阻害薬による細胞増殖抑制作用やアポトーシス誘導能、殺細胞性抗癌剤やEGFRチロシンキナーゼ阻害薬の薬剤感受性への影響を調べるための実験が現在進行中である。さらに、肺癌の手術検体を追加して、免疫染色法によるLGR6タンパク発現解析をすすめる予定である。そのため、これらの実験等に必要な細胞株の培地や細胞培養用ディッシュ、抗体、siRNA、Wnt/beta-catenin経路阻害薬、殺細胞性抗癌剤、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬、siRNAやベクターのトランスフェクション試薬など、実験に必要な試薬等の使用額が次年度に繰り越しとなり、各試薬の購入に使用する予定である。
|