研究課題/領域番号 |
17K09652
|
研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
住本 秀敏 滋賀医科大学, 医学部, 特任講師 (00306838)
|
研究分担者 |
寺本 晃治 滋賀医科大学, 医学部, 特任講師 (10452244)
醍醐 弥太郎 滋賀医科大学, 医学部, 教授 (30345029)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | MAPKシグナル / EGFRシグナル / 肺癌 / ケモカイン / Tリンパ球 |
研究実績の概要 |
H30年度はH29年度に見出したヒトEGFR変異肺癌細胞株におけるEGFRシグナル依存性のCXCL10ケモカイン発現抑制の分子機構に焦点を当ててその解明を目指した。 EGFRシグナルがCXCL10ケモカイン発現を抑制する分子機構を解析した。AZD9291処理によりCXCL10 mRNA発現レベルの上昇を観察したことから、mRNAの転写抑制と分解促進の二つの機序を想定した。Actinomycin-D処理による転写抑制実験の結果から、EGFRシグナルはCXCL10 mRNAの安定化に寄与することが示された。CXCL10遺伝子転写調節領域でホタルルシフェラーゼの発現を調節するプラスミドベクターを構築して、プロモーターアッセイを行った。クローニングした領域中には、IFN応答領域のISREやNFκB結合領域を含んだ。RNA-seqのデータよりIFNg刺激によりIRF-1のmRNAが強く上昇していたことから、IRF-1によるISRE活性化機序を想定したが、予想に反してAZD9291によりプロモーター活性は有意な低下を認めた。ISRE配列のIRF-1結合部位の2塩基を置換したレポーター及び市販のIRF-1、ISREレポータープラスミドを用いた実験でもAZD9291によるプロモーター活性抑制を認め、EGFRシグナルによるIRF-1転写活性抑制がISREを介してCXCL10の転写抑制に関与しているという仮説は支持されなかった。NFκBのDNA binding assayにより、EGFRシグナルはNFκBの転写活性に影響しないことが示唆された。 以上の結果から、EGFRシグナルはCXCL10 mRNAの転写抑制シグナルであることが示唆されるが、その転写調節領域は今回のクローニングした転写開始点上流2kbとは異なる領域にあり、IRF-1やNFκB以外の転写因子の活性に依存していることが考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
昨年度の解析結果より、本年度は研究の焦点を「肺癌細胞のMAPKシグナルとケモカイン産生との関連」から「EGFR変異細胞株とケモカインの関連」に変更して、その分子機構の解明を目指した。文献的にはEGFRシグナルによるCXCL10産生抑制機序に関して、EGFRシグナルがCXCL10 mRNAの不安定性を増強するという報告と、EGFRシグナルがIRF-1の転写活性阻害によりCXCL10 mRNAの転写を抑制する報告が認められる。EGFRシグナルはCXCL10 mRNAの安定化に寄与している結果が得られたため、転写調節の抑制機構の存在を想定してプロモーター解析を行ったが、EGFRシグナルはIRF-1の転写活性を促進する方向に作用しているという結果であり、過去文献とは異なる結果が得られた。EGFR阻害剤とMEK阻害剤ではプロモーター活性に与える影響に若干の相違を認めたが、いずれもCXCL10 mRNAの抑制を説明し得なかった。 Multiplex chemokine assayの結果から、AZD9291処理はCXCL10と同時にCXCL9, CXCL11の産生も同時に上昇させた。これらの遺伝子は同一染色体上の近接した領域に存在することから3つの遺伝子の転写を同時に調節しているシス領域が存在する可能性が考えられる。その転写調節領域は今回クローニングした領域外に存在すると思われるが、活性調節の中心になる転写因子が不明であることから、解析は暗礁に乗り上げている。
|
今後の研究の推進方策 |
EGFR変異肺癌細胞における免疫チェックポイント阻害剤抵抗性が報告されていることから、本シグナルの免疫逃避メカニズムの解明は重要な検討課題である。H30年度はCXCL10ケモカインの発現抑制機構に焦点を当てて解析したがその解明に至らなかった。しかし、TCGAのデータではEGFR変異肺癌で認められるケモカイン発現抑制はCXCL10以外にCCL4,5など多数のケモカインでも認められており、それらの関与も想定される。それらは肺癌細胞ではなく腫瘍内微小環境内の他の免疫細胞などの成分に由来する可能性がある。EGFRシグナルの肺癌細胞への直接作用だけでなく、微小環境ネットワークの調節までを包括したアプローチの方がメカニズムを説明できる可能性があり、ケモカイン以外の要素も考慮の対象になる。 微小環境ネットワークの調節のエフェクター候補として、tissue resident memory T(TRM)細胞が挙げられる。TRM細胞は組織に定住するmemory T細胞のサブセットだが、肺癌を含む多種類の癌でその組織内密度の上昇が予後良好と相関することが報告されており、免疫療法においても重要な役割を担うサブセットである可能性がある。我々はTCGAデータから、そのマーカー分子のCD103の発現レベルがEGFR変異肺癌で有意に低下していることを見出したことから、EGFRシグナルがTRM細胞の生成・維持・誘導などに抑制的に作用するという仮説を考案した。そこで研究の方向性を大きく変更し、この新しい仮説の妥当性の検証し、そのメカニズムの解析へと進めていく方針とする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
物品費は試薬・器具類の購入に充当しているが、必要な物品類の一部は他の研究費から購入可能となったため、当該年度の予算を使い切るに至らなかったことが理由である。
|