研究課題
外科切除された通常型間質性肺炎(UIP)パターン間質性肺炎合併非小細胞肺癌3例の間質性肺炎組織と肺癌組織、間質性肺炎非合併非小細胞肺癌3例の肺癌組織と周囲の非間質性肺炎肺組織からTotal RNAを抽出し、網羅的マイクロRNA(以下miRNA)発現解析を行った。しかし網羅的miRNA発現解析については、解析直前のバイオアナライザーによるTotal RNA再評価で解析困難な検体があり、さらに間質性肺炎合併非小細胞肺癌と間質性肺炎非合併非小細胞肺癌各2例からインフォームドコンセントによる同意を得て、外科切除検体からTotal RNAを抽出した。バイオアナライザーの評価が良好な各3例のTotal RNAを用いて、GeneChip miRNA 4.0を利用した受託解析を行った。網羅的miRNA発現解析から、間質性肺炎非合併非小細胞肺癌の肺癌組織および非間質性肺炎肺組織と比較して、間質性肺炎合併非小細胞肺癌の肺癌組織および間質性肺炎肺組織で共通して発現が2倍以上亢進または減弱していたmiRNAを複数検出した。6種類のmiRNAが顕著な変化を示したため、その後の解析への候補miRNAとした。これら6種類のmiRNAのうち、非小細胞肺癌において発現低下が報告されている1つのmiRNA(以下miR-X)に注目した。miR-Xは発現抑制により癌細胞の増殖、浸潤、転移、アポトーシス抑制等を引き起こすこと、肺胞上皮細胞においてWnt/β-catenin経路を阻害すること、様々な細胞において上皮間葉転換(以下EMT)を抑制することが報告されている。以上からmiR-Xに対する研究を進め、非小細胞肺癌細胞株におけるmiR-X発現低下を確認後、miR-Xのmimicを非小細胞肺癌細胞株へ導入してmiR-Xを過剰発現させ、機能解析を行っている。なお疾患モデルマウスを用いたin vivoアッセイも開始した。
2: おおむね順調に進展している
平成30年度の前半に網羅的miRNA発現解析(受託解析)結果が得られ、結果に対する詳細な評価から、間質性肺炎合併非小細胞肺癌の癌組織と間質性肺炎組織において、複数のmiRNAが特徴的に共通の発現変化を示していることを発見した。さらに既報を検討した結果、miR-Xは肺癌を含む複数の組織の癌において有意に発現が低下しており、miR-X発現の抑制により癌の増殖、浸潤、転移が促進することも報告されていた。また肺胞上皮細胞におけるWnt/β-catenin経路の阻害や様々な種類の細胞における(少なくとも一部はWnt/β-catenin経路阻害を介しての)EMT抑制も報告されていた。miR-Xの抽出は予想していなかったが、miR-Xの発現、機能に関するこれら過去の報告は、我々の研究結果に合致しており、網羅的miRNA発現解析結果から候補miRNAを予想よりも早く特定できたため、平成30年度前半は予定通りの進捗となった。その後、非小細胞肺癌細胞株におけるmiR-Xの発現レベルを確認するために定量的リアルタイムPCR解析を行ったが、予想に反して解析の設定、調整と結果の取得が遅延した。そのため非小細胞肺癌細胞株におけるmiR-Xの発現レベルおよびmiR-Xの発現が低下している非小細胞肺癌細胞株の特定に時間を要し、当初平成30年度中に終了する予定だった候補miRNAのin vitroアッセイは現在遂行中であり、平成31年度前半の終了を予定している。しかしながらこの解析遅延への対応として、miR-X以外の複数のmiRNAに対しても並行して、定量的リアルタイムPCRによる発現レベルを確認することとした。さらに対象となるmiRNAのmimicまたはinhibitorを用いてのin vitroおよびin vivoアッセイによる機能解析に対する準備を並行して開始したため、現在は概ね順調に進捗している。
平成31年度の研究到達目標は、2種類のin vivo疾患モデルマウス(ブレオマイシン気道内注入による間質性肺炎・肺線維症モデルマウスと非小細胞肺癌移植マウス)を作製して候補miRNAの発現制御を行い、間質性肺炎と非小細胞肺癌への治療効果を確認することである。in vitroアッセイによる間質性肺炎および非小細胞肺癌に対する機能解析はやや遅延したが既に遂行中であり、すでに疾患モデルマウス作製については準備を進め、研究計画書に基づいた作製を開始している。非小細胞肺癌移植マウス作製がやや遅延する可能性は考えられるが、移植細胞株決定後の疾患モデルマウス作製には時間を要さないと考えられるため、in vivoアッセイ全体の開始時期に大きな遅延は生じないと予想される。経費については次年度使用額を充当するため、過不足は生じない。一方、miR-X以外の候補miRNAについても、miR-Xと並行してin vitroアッセイによる機能解析を効率的に行えるように環境を整えている。そのためin vitroアッセイの進捗状況によっては、miR-X以外の候補miRNAをin vivoアッセイに採用するように変更する。その場合は対象とするmiRNAのmimicまたはinhibitorを疾患モデルマウスへ注入して解析する。ただし効率的に研究を進めるため、miR-X以外の候補miRNAについては過去の報告等を十分に検討して特定した上で、in vitroアッセイおよびin vivoアッセイに採用する。なおmiR-Xに対する機能解析が予定通り進捗するならば、miR-Xに対する解析を進めることとする。疾患モデルマウスを用いたin vivoアッセイに関しては、マウスへのmiRNA導入効率を考慮して、導入に時間を要する可能性があるならば、アデノウイルスベクターを用いたmiRNA導入へ早期に移行する。
平成30年度の研究で完遂予定だった、網羅的miRNA発現解析により抽出し、定量的リアルタイムPCRで発現レベルを確認した候補miRNAとなるmiR-Xの過剰発現によるin vitroアッセイは現在遂行中のため、次年度使用額が生じた。しかし平成31年度前半にin vitroアッセイは終了予定であり、次年度使用額は本来平成30年度研究予定のin vitroアッセイ該当分のため、すべて支出する予定である。平成31年度の研究到達目標である、2種類の疾患モデルマウス(ブレオマイシン気道内注入による間質性肺炎・肺線維症モデルマウスと非小細胞肺癌移植マウス)に対するmiR-Xまたは候補miRNAの発現制御による機能解析(in vivoアッセイ)についてはin vitroアッセイと並行して行う予定だが、すでに別途計上している平成31年度研究費予算で賄えるため、費用支出に支障はない。平成31年度研究計画分の疾患モデルマウスを用いたmiRNAのin vivoアッセイに際して行うmiRNA導入に関しては、十分な効果が得られない可能性もあるため、ウイルスベクターの採用も念頭におき、その場合には対象とするmiRNAを1種類にするなど、研究範囲を状況に合わせて臨機応変に変更する。以上により次年度使用額と翌年度分(平成31年度請求額)は、平成31年度中に過不足なく使用する予定であり、本研究に支障はきたさない。
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