研究実績の概要 |
慢性閉塞性肺疾患(COPD)は喫煙を原因とし, 酸化ストレス増加に関連した細胞老化や細胞死の亢進が重要な役割を果たす. これまでシャペロン介在性オートファジー(CMA)の呼吸器病態への関与は明らかではなく、COPD病態におけるCMAの蛋白質恒常性維持機構としての役割解明を目的として以下の検討を行った. 1,喫煙刺激がCMA活性に及ぼす影響を検討した.CMA活性はリソソーム膜タンパクの一つであるLysosome associated membrane protein type2A(LAMP2A)の発現量と正の相関をする. 手術検体より得られた肺組織から分離・培養したヒト気道上皮細胞(HBEC)にタバコ抽出液(CSE)刺激を加え, LAMP2A発現量を時間経過で検討した結果,LAMP2Aタンパク及びmRNA発現量は一過性に増加し,CMA活性が亢進することを確認した. 2、COPD肺におけるCMA活性を検討した.肺組織検体をCOPD, 非COPD喫煙者及び非喫煙者の3群に分け, 各群のLAMP2A発現を免疫染色及びHBECのWestern blotting法, real-time PCR法で評価した.その結果, COPD肺は非COPD肺と比べてHBECのLAMP2A発現量が低下しており, CMA活性の低下が示唆された. 3,CMA活性と喫煙刺激が細胞運命に与える影響を検討した.LAMP2Aをノックダウンし, CMAを阻害したBeas 2B細胞にCSE刺激を行い, LDHアッセイ及びMTTアッセイで細胞死の評価を行ったところ、細胞死が更に増加した.次に, カスパーゼ阻害剤であるZ-VAD-FMKを喫煙刺激前に加えたBeas 2B細胞でAnnexin V-PI染色を行ったところ細胞死が減少し, CMA活性低下で増加する細胞死がアポトーシスである可能性が示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CMA低下の結果, 気道上皮細胞における細胞死が増加することがin vitroで示されているが, その細胞死がアポトーシスで良いか確立していない.また, アポトーシスと仮定し, その機序として小胞体ストレス応答の関与を考えているが, こちらも種々の小胞体ストレス応答のsignaling pathwayを検討している段階であり, やや遅れていると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
(1)CMA調節因子の検討:培養気道上皮細胞を用いて, CMA活性の指標であるLAMP2A発現に関与する候補タンパク質をノックダウンし, western blotting法, real-time PCR法で評価する. (2)CMA基質タンパク質の同定:培養気道上皮細胞を用いて, CSE刺激の有無での検討を行う.LAMP2Aをノックダウンした上で, 二次元電気泳動法と液体クロマトグラフィー質量分析法を用いる. 同定されたタンパク質発現の変化はwestern blotting法により, マクロオートファジーやプロテアソームの影響を受けずCMAにより選択的に分解されることを確認する. (3)CMAによる細胞傷害及び細胞運命の制御:CMA機能低下が喫煙刺激による細胞傷害や表現型に与える影響を培養気道上皮細胞で検討する.LAMP2AノックダウンによりCMAを阻害した上で,CSE刺激を加え細胞死,小胞体ストレス応答について評価する.次に(1)で同定されたCMA基質タンパク質をノックダウンや過剰発現した上でCSE刺激を行い,細胞運命に与える影響,ROS産生,ミトコンドリア形態・機能, ライソソーム機能,小胞体ストレス応答について評価する. 更にLAMP2A又はATG5をノックダウンし, CMA又はマクロオートファジーを阻害した上で, 各々の活性を評価する. (4)COPD肺組織でのCMA活性:手術検体由来の肺組織を用いてホモジネートのWestern blotting法や免疫組織学的にCMA活性の検討を行い, 喫煙歴・呼吸機能検査等の臨床所見との関連性を比較検討する. (5)6-10週齢マウス(C57BL/6)を30週に渡って喫煙暴露することでCOPDマウスモデルを作成し, 肺の摘出を行う.肺組織の免疫組織染色, 及び肺ホモジネートによりCMA, 及びマクロオートファジー活性を評価する.
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