研究実績の概要 |
これまでに、喫煙刺激によって気道上皮細胞において細胞内の遊離鉄濃度が上昇し、フェロトーシスを介してCOPD病態形成に関与することを証明した。近年細胞内の遊離鉄(Fe2+)の産生機序として、オートファジーによるフェリチンの分解機構(フェリチノファジー)が報告されたことに着目し、遊離鉄産生の機序をさらに探索した。気道上皮細胞に対する喫煙刺激では、共焦点顕微鏡においてフェリチンとLC3との共局在を伴った発現上昇を認めた。気道上皮細胞において喫煙刺激によってフェリチンは一過性に上昇するも、その後NCOA4(フェリチノファジーのアダプタータンパク)の発現上昇に伴って次第に減少に転じた。またNCOA4をsiRNAでノックアウトすると喫煙によるフェリチン上昇がさらに増大し、遊離鉄の産生を抑制した。喫煙刺激により、気道上皮細胞の脂質酸化反応および細胞死は増加するが、NCOA4ノックダウンによってそれらは有意に抑制された。NCOA4siRNAをマウスに経気道投与を行ったところ、気道上皮のフェリチンの発現は亢進し、脂質酸化反応は抑制された。また、NCOA4siRNAのマウス経気道投与は3週間の喫煙暴露による細胞死を有意に抑制した。COPD患者肺組織の免疫染色においてNCOA4の発現は正常肺に比べて有意に亢進していた。ウェスタンブロットでのNCOA4発現の強さは、患者の呼吸機能(1秒率)の低下と有意に相関していた。これらの結果から、喫煙刺激はNCOA4により制御されるフェリチン特異的オートファジーを亢進させ, 気道上皮細胞内の遊離鉄を増加させることが考えられた。そしてこの細胞内遊離鉄の増加およびGPx4活性の低下がフェロトーシスを誘導し、COPD病態形成に関与すると考えられた。
|