研究課題
現在の治療薬では喘息の病態コントロールが難しい難治性喘息患者が未だに多数存在する。本研究では喘息を誘発する特異的抗原に反応する免疫系細胞を制御する制御性T細胞(regulatory T Cell:Treg)を人工多能性幹細胞(induced Pluripotent Stem Cell:iPS細胞)から分化誘導し、その細胞を用いた喘息の基本的病態を根本的に制御する新規治療法の可能性を追求するものである。まず平成29年度の実績として、我々が独自の手法で作出することに成功したヒト単球由来iPS細胞の再現実験とリプログラミング時の細胞viabilityについての検証を行った。我々の考案した培養方法であれば、高生存率を維持したまま細胞周期を保持させることができ、これが単球由来iPS細胞の作出に必要な培養条件であることを確認した。次に単球由来iPS細胞から分化誘導実験を行ったところ、単球への分化誘導は複数回にわたり再現することができた。単球から樹状細胞への分化誘導にも成功しており、細胞の抗原提示能の指標となるHLA Class2のHLA-DRの発現を確認した。このHLA-DRの発現に関する再現性実験は成功しているが、樹状細胞に一部で形態的、かつCD14のマクロファージ様細胞が混在している状況である。今後、より高率的かつ特異的に樹状細胞への分化誘導を検証していく予定である。他方、免疫制御系の細胞であるTregに未熟リンパ球からの誘導作用があるIL-35について、実臨床の喘息患者血清中のIL-35を測定するため、サンプルの収集を行っている。予定検体数を確保しつつあるため、平成30年度以降に随時測定して、喘息病態と血清IL-35濃度についての検証を行っていく。
2: おおむね順調に進展している
初年度の平成29年度では、本研究の主体である単球由来iPS細胞の再現実験や単球由来iPS細胞からの分化誘導条件の検討を行うことができたと考えている。再生医療研究の進捗において、複数回の再現実験をできることは、非常に重要な観点であると考えており、今後も確実な実験進捗と再現確認を行っていく。ただし、予定している分化誘導条件について、充分な種類と組み合わせを行えているとは言えない。平成30年度以降、実験進捗を加速させる必要があると考えている。
ES細胞はC3H10T1/2支持細胞との共培養により,CD34陽性の造血幹細胞および造血前駆細胞に分化誘導でき、さらに造血幹細胞および造血前駆細胞をOP9-DL1支持細胞と共培養することにより、T細胞系統へと分化誘導できると報告されている。ヒト単球由来iPS細胞がNaive-T細胞に分化誘導できるかを検証する。まず、既報に基づいた検証実験を行うため、これらの支持細胞の国内細胞バンクより購入・入手する手続きを始めている。平成29年度の研究実績において報告しているように、より高率的かつ特異的に樹状細胞への分化誘導を検証していく。喘息患者血清中のIL-35を測定して、喘息病態と血清IL-35濃度についての検証を行う。単球由来iPS細胞と理化学研究所バイオリソースセンターなどから購入できる線維芽細胞由来iPS細胞や単球以外の単核球由来iPS細胞を用いて、同様にTregへの分化誘導に関する効率を比較し、iPS細胞が記憶している作出元細胞のDNAメチル化の相違(エピジェネティックメモリー)による分化への影響を検討する。
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