消化管由来のホルモンであるインクレチンGlucose-dependent insulinotropic polypeptide(GIP)が糖尿病性腎症の病態において腎保護効果をもたらすのか解明することを目的として研究を遂行した。平成29年度に腎臓でのGIP受容体(GIPR)の発現・局在について再検討を行った。C57BL/6マウスの腎臓の各部位からmRNAを抽出しGIPRの発現量を定量RT-PCRにて調査したところ、GIPRは腎臓において尿細管よりも糸球体や血管で強く局在し発現していることを確認したが、もう一つの主要なインクレチンGlucagon-like peptide-1(GLP-1)の受容体(GLP-1R)と比較して腎臓内での発現量はかなり少ないことが判明した。平成29~30年度に遂行したGIPR欠損C57BL/6-Akitaマウスの腎病変の解析では、軽度の腎病変の進行が観察された。平成30年度~令和元年度には、進行性糖尿病性腎症を発症するKK/Ta-AkitaマウスにおいてGIPRを欠損させたマウスモデルを作製し、腎病変の変化について解析を行ったが、GIPRシグナルの減少による腎病変のさらなる進行や悪化は観察されなかった。また、GLP-1R GIPRダブル欠損C57BL/6-Akitaマウスも作製し、腎病変の変化について解析を行ったが、GLP-1Rシングル欠損C57BL/6-Akitaマウスの腎病変と比較して病変の進行度に大きな差はみられなかった。 以上より、GIPRシグナルは糖尿病状態下では腎保護的に作用してはいるが、GLP-1R に比してGIPRはその腎臓における発現量が極めて少ないために、GLP-1Rシグナルによってもたらされるような顕著な腎保護効果を発揮していないと考察した。
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