研究課題
メタボリックシンドローム(Mets)ラット(SHR/ND mcr-cp)に食塩を負荷し、4週間観察した。4週後には著明な蛋白尿を呈する糸球体障害を認めた。セリンプロテアーゼ特異的DLFザイモグラフィーで尿中のセリンプロテアーゼを評価すると、約80kDa付近に著明に活性が亢進したセリンプロテアーゼを認めた。分子量、および基質への反応性、これまでの検討結果よりこのセリンプロテアーゼがプラスミンである可能性が高いと考え、抗プラスミノーゲン抗体を用いたWBを行い、このプロテアーゼがプラスミンであることを同定した。近年、糸球体から漏出した血液中のプラスミノーゲンが糸球体上皮細胞podocyte表面でウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター(uPA)によりプラスミンへ活性化され、プラスミンが酸化ストレス等を介してpodocyte障害を誘導することがin vitroの実験で報告されたため、in vivoにおいてもプラスミンが糸球体障害を誘導しているかについて検討した。食塩負荷早期の明らかな腎障害が生じる前のプラスミン活性を評価した。実験にはSHR/ND mcr-cpと同様に代謝異常・食塩感受性高血圧を呈するDahl食塩感受性高血圧ラット(DSラット)を用いた。食塩負荷1週の時点では、糸球体過剰ろ過を反映しクレアチニンクリアランスの上昇(糸球体血行動態の変化)と尿中へのアルブミン排泄、尿プラスミン活性の亢進を認めた。腎(whole kidney)抽出蛋白を用いたザイモグラフィーではプラスミンの活性化は認めなかった。合成セリンプロテアーゼ阻害薬を投与すると、クレアチニンクリアランスには変化を認めなかったが、尿中プラスミン活性の抑制と、尿中アルブミン排泄の低下を認めた。このことから生体においても糸球体障害にプラスミンの活性化が関与していることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では各種腎疾患において糸球体障害を誘導するセリンプロテアーゼの同定と治療応用の可能性を検討している。現時点で候補セリンプロテアーゼとしてプラスミンを検出しており、プラスミン活性抑制が糸球体障害(アルブミン尿)を軽減するという知見を得ている。当初はプロテアーゼの活性化のカスケードの検索を行う予定であったが、プラスミン活性抑制による治療効果を先に検討した。
次年度は生体におけるプラスミン活性化の機序を明らかにする。in vitroの検討ではプラスミンが糸球体上皮細胞ポドサイト表面で活性化されることが報告されている。in vivoで糸球体内のプラスミンの活性化部位を明らかにするため、プラスミンの免疫染色を行い、プラスミンとポドサイトの相互作用を確認する。ポドサイト表面へのプラスミンの存在が確認できたら、uPAやtPA等のプラスミン活性化因子の免疫染色を行いプラスミンの活性化カスケードを明らかにする。カスケード上流のプロテアーゼが治療標的となる可能性を検討する。
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Sci Rep
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