研究課題
慢性腎臓病(CKD)における腎内局所炎症と細胞連関の意義に関して、マクロファージ由来炎症惹起因子myeloid-related protein 8(MRP8)を例に検討を行っている。Nephrotoxic serumによる腎炎モデルを用いて骨髄細胞特異的にMRP8欠損(LysM-Cre-MRP8欠損マウス)を行うと、蛋白尿および糸球体滲出性病変が有意に抑制されるとともに、腎臓内マクロファージの特性がM1優位からM2にシフトした。さらに、レクチンの一つであるMincleが有意に抑制された。また、in vitroの検討では、メサンギウム細胞由来液性因子がMRP8誘導に重要であることを見出した。一方、CKDの病態では糖尿病性腎症に代表されるように、ポドサイト傷害が重要である。そこで、メサンギウム細胞由来液性因子(MC-sup)によるポドサイト傷害の可能性について、in vitroの系で炎症やERストレス関連蛋白・遺伝子発現の変化を検討した。その結果、ERストレスに関与する経路のうちの一つ、IRE1α-XBP1経路(ER-associated degradation<ERAD>の代表的経路)が抑制されることを見出した。さらに、TUNEL染色で示したアポトーシスの誘導が認められた。PCR arrayを用いた網羅的解析でも、ポドサイトにおいては、MC-supによる刺激で前述の経路に関与する分子の遺伝子発現がマクロファージなど他の細胞と比べ抑制されていた。すなわち、本来ポドサイトにERストレスが加わると、IRE1αがリン酸化されXBP1のスプライシングが起きて不良蛋白分解が促進されるが、糖尿病などではこの経路が障害されることで、正常なストレス応答が阻害され、アポトーシスが誘導されることが示唆された。このように、CKDではメサンギウム細胞を軸とした細胞連関がその進展に重要と考えられた。
2: おおむね順調に進展している
研究計画に示した内容について、進み方に違いはあるもの、徐々に成果が出てきており、また一部は想定した範囲を超えて内容が広がっている。また、そのいくつかについて学会発表(欧州腎臓・透析移植学会、国際高血圧学会、米国腎臓学会等)を行うことができた。さらに、論文発表の準備を進めている。
骨髄細胞特異的MRP8欠損マウスを用いた検討をさらに進め、特に他の慢性腎臓病モデル(糖尿病、線維化モデルなど)についても検討を始める。これを抑制する戦略についても検討を進めていく。ポドサイト-メサンギウム連関に関しては、その機序の詳細な検討や、in vivoにおける現象の確認などがまだ不十分である。また、この細胞間クロストークに対して阻害効果を示す何らかの物質を見出すことが出来れば、糖尿病性腎症をはじめとする慢性腎臓病に対する新たな治療戦略となると考えている。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 1件、 査読あり 6件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (11件) (うち国際学会 8件、 招待講演 3件)
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