研究課題/領域番号 |
17K09710
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
萩原 あいか 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 共同研究員 (00627052)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | SGLT2阻害薬 / アデニル酸代謝 / 腎保護効果 |
研究実績の概要 |
平成30年度では、各種腎不全病態のうち急性腎不全(AKI)に主眼をおいて腎の代謝変容の解析を行った。AKIの進展には腎虚血が大きく関与し、腎虚血に伴うAKIでは腎のエネルギー代謝変容が腎障害を惹起すると考えられている。これまで心停止蘇生後や腎移植時の腎摘除後等、臨床において問題となる数分間の腎虚血後のAKIの機序については十分な検討がなされていなかった。そこで我々は、新しい研究手法であるマトリックス支援レーザー脱離イオン化法マスイメージング(MALDI-IMS)を用いて、マウス腎動脈クリッピングでの10分間の短時間虚血によるAKIにおける腎エネルギー代謝変容を検討した。45分間虚血では、ROS産生の亢進が顕著となり、腎間質の線維化と腎機能低下が生じると考えられている。10分間虚血では、ROS産生は顕著ではなく組織学的な腎障害はみられないものの、尿中Na排泄分画の低下を特徴とする腎機能低下が認められた。このことから、短時間虚血によるAKIでは腎Na再吸収を駆動する腎エネルギー代謝の低下が示唆された。次に、それら腎エネルギー代謝変容を腎の部位別にMALDI-IMSにて解析した。正常腎では、酸化的リン酸化が盛んな皮質優位にATPは分布し、嫌気代謝が主体である髄質内側ではATPは低値であった。10分間虚血において、近位尿細管が分布する皮質および髄質外側線条ではATPが低下し、総アデニレート(ATP+ADP+AMP)の喪失が生じたものの、髄質内側線条および髄質内側ではその喪失は生じなかった。10分間虚血後24時間の再灌流による皮質および髄質外側線条での総アデニレートの回復は虚血前の80%程度にとどまり、再灌流後もATP低下が遷延した。これらより、短期虚血に伴うAKIの新しい治療戦略として、喪失した腎皮質の総アデニレートの改善が有用と考えられた。現在これらをまとめた論文を執筆中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3年間の研究期間において以下の事項を明らかにする計画を立てており、現在、1において検討が順調に進行しており、腎疾患発症に関与する代謝変容を見出してきているため。 1 各種腎不全病態における腎臓のエネルギー代謝の可視化解析 腎不全進行のリスクとなる糖尿病性腎症と虚血腎のモデルマウスにおける腎代謝変容をマスイメージングにて可視化して経時的に解析する。平成29年度のdb/db肥満糖尿病マウスならびにストレプトゾトシンを用いたインスリン欠損糖尿病マウス、眼窩底から600μl脱血による急性腎不全モデルに加え、今回、10分間の短時間腎虚血による急性腎不全での腎エネルギー代謝変容を解析し、所見を得た。 2 SGLT2阻害薬の代謝変容を介した腎保護効果の可視化解析 糖尿病性腎症と虚血腎のモデルマウスを作成し、SGLT2阻害薬を投与による腎代謝変容の是正をマスイメージングにて解析する。最終的には、1および2の解析結果を踏まえ、腎不全病態の代謝変容の是正による新規腎保護戦略の提案を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
1 虚血腎におけるSGLT2阻害薬のアデニル酸代謝への作用を介した腎保護効果の可視化解析 我々はメタボローム解析を用いてSGLT2阻害薬に伴う腎の代謝変容の解析を行い、SGLT2阻害薬の投与による糖再吸収の低下に伴いアセチルCoAおよびNADHが減少し、ATP等のアデニンヌクレオチドの分解が進行し、アデノシンが増加することを見出した。一方、600μlの脱血にて急性腎前性腎不全を生じさせるモデルマウスでは、腎血管自動調節機構と腎血流維持においてアデノシンA2受容体が重要な役割を果たすことが示唆された。また、腎動脈コイリングを用いた慢性腎虚血モデルにおいても、ATPからアデノシン産生に至るアデニル酸代謝が変容する結果を得た。そこで、このような虚血腎における腎アデニル酸代謝の変容を、マスイメージングにて経時的に可視化して解析するとともに、SGLT2阻害薬投与によるアデニル酸代謝の是正を検討し、アデノシンを介したSGLT2阻害薬の腎保護効果について代謝変容の見地から検討する。
2 糖尿病性腎症におけるSGLT2阻害薬の腎保護効果の検討 EMPA-REG OUTCOME試験で示されたように、SGLT2阻害薬は糖尿病性腎症における腎保護効果を併せ持つ薬剤であるが、その腎保護メカニズムは明らかにされていない。我々はSGLT2阻害薬が、糖尿病性腎症に伴うニコチン酸代謝の変容を回復させる可能性を考えており、マスイメージングを用いて研究を進める。また、先述のSGLT2阻害薬によるアデノシンの増加が、糖尿病性腎症に伴う尿細管間質の慢性虚血に与える影響を検討する。最終的に糖尿病性腎症含めた腎疾患の発症に関与する代謝変容を制御する方法の開発に取り組む。
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