研究課題
SGLT2阻害薬は近位尿細管から尿糖再吸収を阻害し血糖降下作用を示す薬剤であるが、減量作用も有する。しかしその機序は不明であり、浸透圧利尿や糖分排泄促進のみならず、脂肪燃焼促進の関与が示唆されている。これまで我々は、高脂肪食摂餌マウスにSGLT2阻害薬であるトホグリフロジンを投与し、メタボロームおよびマスイメージングにてトホグリフロジン投与群において腎臓での解糖系中間代謝産物の低下に伴うアセチルCoA低下とアデノシン上昇を見出した。アデノシンはATP分解産物であり主に虚血時に産生が亢進するが、腎自律神経求心路の主要な刺激物質としても知られている。そこで最終年度はSGLT2阻害薬投与に伴う腎アデノシン増加が、腎求心路および脂肪交感神経の活性化を介し、その減量作用に関与する可能性を検討した。高脂肪食負荷肥満ラットをコントロール群および腎除神経術を施行した群に分け、腎動脈よりアデノシンを注入し、各脂肪組織におけるHSL活性をウェスタンブロット法によるp-HSL/HSL比にて評価した。その結果、アデノシンの腎動脈注入により脂肪組織でのHSL活性が有意に上昇し、腎除神経群ではその上昇を認めなかった。以上より、腎アデノシンが腎求心路を介して脂肪燃焼を制御する代謝制御分子として機能する可能性が考えられた。SGLT2阻害薬による糖再吸収の低下は腎臓全体のエネルギー代謝を変容させ、腎求心路を介して全身のエネルギー代謝にも影響を与える可能性が示唆された。アデニル酸代謝経路に関わる代謝酵素を標的とした腎保護戦略は、すべての腎不全において共通の病態である慢性腎虚血に対して有効となる可能性が考えられ、成因が多岐にわたる腎不全において非常に有意義であると考えられる。3年間の研究結果を踏まえ、代謝変容是正の観点からの新規腎不全治療を提案し、1300万人を超える慢性腎臓病患者への臨床応用を目指していく。
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JCI insight
巻: 4 ページ: -
10.1172/jci.insight.124816.