研究課題/領域番号 |
17K09714
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研究機関 | 東京女子医科大学 |
研究代表者 |
土谷 健 東京女子医科大学, 医学部, 教授 (00246472)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | CKD / Klotho / AKI / リン / 虚血 / FGF23 |
研究実績の概要 |
慢性腎臓病(CKD)は500万人以上の罹患が推定され、高齢化が進む中、国民病として位置付けられるようになっている。最近、慢性腎臓病(CKD)の発症・進展・重症化には、種々の程度の頻回な腎障害(AKI: acute kidney injuryを含む)が集積することにより生じうることが注目されている。それは、特定の原因疾患によらず、CKDが発症もしくは増悪する可能性を示唆し、特に高齢化社会では末期腎不全・透析の患者が増加する結果となる。 本研究では、研究者らが従来から検討しているリン制御因子、組織保護作用のあるKlotho蛋白の特性を応用し、いわゆるAKIからCKDの相互互換の成立の機序を解明し、いかなる治療介入が有効か検討することにある。研究者らは腎尿細管に発現するKlotho蛋白のリン制御、anti-aging作用に着目し、CKDのstage早期から発現の低下を観察し、組織障害とは悪循環を形成し、さらにリン代謝障害とあいまってCKDの病態を形成すると報告した。 本年度は、繰り返しの軽度腎障害がCKDの発症、増悪にいたる動物モデルの確立および、CKD発症、進展に関わるCommon pathwayのシグナル・細胞生物学的機序の検討に主眼をおいている。具体的には軽度の腎虚血障害を定期に繰り返すモデルで、検討を進めた。Klotho蛋白が半減したマウス(Haproinsufficiency)では重症化することが判明し、さらに慢性化する条件、他の種類の腎障害を検討する予定である。CKDの慢性化、重症化の過程で変化する遺伝子、蛋白発現情報を検討し関連する因子の検討を行うため、各実験において、腎組織、血清のデータを取得した。今後は、手法的には従来の網羅的遺伝子解析、線維化関連シグナルの検討を、組織、分離培養細胞などで行う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
繰り返しの軽度腎障害がCKDの発症、増悪にいたる動物モデルの確立: 虚血モデルマウスでの検討をおこなった。Klotho発現が半減した、 (kl-/+)マウスで、通常の虚血再灌流モデルとされる腎動脈clump手技で、20分間虚血の短時間処置を週1回、3週間継続することで、腎機能、組織障害の増悪を確認した。今後もこのモデルでの検討を進める。 Klotho発現量の調節: Klothoの腎組織発現量はCKDのstage進行とともに低下すると指摘されており、さらにその発現低下が組織の脆弱性を増加することを研究者らは報告した。 (kl-/+)マウスは基本モデルであるが、遺伝子操作手技であるsiRNAを用いてKlotho mRNA発現をin vivoレベルで調節、その影響を検討した。これには研究者らが確立しているhydrodynamic methodで対応した。さらに条件を変化させるため以下の対応を試み、リン摂取量の調節、リン吸着剤投与モデルで検討した。 HTRF(Homogenous Time-Resolved Fluorescence)法:同法は初めての試みであり、現在は条件づけを行っている。この点が少し進捗状況が遅れている状況であるが、全般的には予定範囲内である。
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今後の研究の推進方策 |
繰り返しの軽度腎障害がCKDの発症、増悪にいたる動物モデルを確立。29年度の実験を継続する。 このモデルをもとに、以下の検討を推進する。1) Common pathwayのシグナル・細胞生物学的機序の検討も従来からの知識、技術の蓄積があり検討を続ける。2) 障害の進行、程度などを把握するモニター因子の同定、動態検討は技術的には新規の試みである。3) 治療介入が有効な因子、条件の把握はやはり、何らかの新規な物質、条件等に挑戦する。Klothoの発現に促進的に働く因子としては、statinやangiotensin receptor blocker(ARB)、Peroxisome proliferator-activated receptor (PPAR)-γ agonistなどが指摘されている。さらには線維化に対する抑制的な作用を期待するような治療戦略が必要と考えられる。バルドキソロンのような抗酸化作用薬の線維化抑制効果などが注目される。Nrf2の活性化は、細胞内の抗酸化因子の増加や炎症のシグナル経路の抑制により、組織を炎症から保護する。大容量のスクリーニングでこうした因子を特定していく方針である。
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次年度使用額が生じた理由 |
繊維化過程で、発現する遺伝子の網羅的解析を行い、関与遺伝子の特定を進める計画であるが、実際に蛋白レベルでの発現を確認するため多種類の抗体を購入予定であった。今年度は比較的特異性の高い蛋白が同定されたため、購入する抗体価格が予測よりも低額であった。次年度はこのスクリーニングと特定の作業を継続する予定で、今回の助成金もあてて、検索を継続する予定である。
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