本研究計画では、特発性膜性腎症の病態における、ホスホリパーゼA2受容体(PLA2R)の役割について、ヒトポドサイト細胞株を用いて明らかにすることを目的とした。 本年度は、まず、前年度に引き続き、2つ目のヒトポドサイトのセルラインを用いて、かつ、1つ目のヒトポドサイトのセルラインから若干手法も変えて、新たな安定形質発現株病態研究を進めた。具体的には、安定形質発現株作製の第1段階として、まず、フルレングスのヒトPLA2R 遺伝子情報を合成した遺伝子をベクターに挿入し、発現ベクターをヒトポドサイト細胞株にトランスフェクションし、リアルタイムPCRにより一過性の発現を確認した。並行して、トランスフェクション後の細胞を抗生剤を含む培地中で、継代培養し、安定発現細胞を樹立することを目指したが、プール細胞の調製段階で、遺伝子導入24~48時間後で、細胞がほぼ死滅してしまった。PLA2R1遺伝子は細胞周期の制御に関わる遺伝子で、細胞によっては高発現させることで細胞増殖が抑制されることが報告されており、遺伝子の機能も細胞死の原因の1つではないかと考えられた。この段階で、2つ目のヒトポドサイトのセルラインを用いた実験については断念し、ひとまず、それまでの成果を論文化した(Immunol Med. 2020;43:47)。今後は、「1つ目のヒトポドサイトのセルラインに抗PLA2R1抗体陽性患者血清を添加することで細胞内活性酸素の状態に変化が見られるかどうか」を検証する予定である。また、患者血清(中に含まれる抗PLA2R抗体または別の物質)が、I型インターフェロンを誘導している可能性を検討するため、レポーター細胞株を入手した。 本研究期間全体を通じては、抗PLA2R抗体の新規測定法を開発し、日本人患者における同抗体測定の意義について論文報告し、その病態的意義についての研究を進めた。
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