研究課題/領域番号 |
17K09717
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研究機関 | 日本医科大学 |
研究代表者 |
清水 章 日本医科大学, 大学院医学研究科, 大学院教授 (00256942)
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研究分担者 |
石井 永一 日本医科大学, 大学院医学研究科, 研究生 (00193243)
康 徳東 日本医科大学, 医学(系)研究科(研究院), その他 (00571952) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 係蹄基底膜障害 / IV型コラーゲンのα鎖 / 低真空走査電子顕微鏡 / 腎生検病理診断 / 糸球体係蹄 / 電子顕微鏡 / 菲薄基底膜病 / 糸球体疾患 |
研究実績の概要 |
今年度は、糸球体疾患の診断のために行われた腎生検の臨床検体を用いて、糸球体疾患の進展における糸球体基底膜障害をIV型コラーゲンのα鎖の変化や低真空走査電顕(LV-SEM)を用いて超微形態学的に検討した。昨年度に解析したIgA腎症に加え、今年度は幼少時期より血尿を認め、症例によっては高齢期に慢性腎不全にまで進行する係蹄基底膜IV型コラーゲンの遺伝的異常による菲薄基底膜病の糸球体基底膜障害の解析を行った。係蹄基底膜は菲薄化し、IV型コラーゲンα5鎖の不規則な減弱と、α2鎖が増強する糸球体基底膜の質的な変化や、低真空走査電顕(LV-SEM)による糸球体基底膜の削り取り像や裂孔の存在などの超微形態学的変化を確認した。しかし、菲薄基底膜病では係蹄基底膜障害が腎機能の低下に直接的には関連しておらず、他の腎疾患と同様に動脈硬化と荒廃化糸球体の頻度や尿細管間質障害の程度が腎機能と関連していた。菲薄基底膜病は良性家族性血尿とも言われている様に、その疾患そのものでは末期腎不全に進展することは少なく、一般的に知られている腎機能悪化因子によって他の糸球体疾患と同様に腎機能が低下していることを明らかにした。この結果は、小児期に発見されることの多い菲薄基底膜病の進展機序を考察する上で臨床的意義は非常に大きいと考えている。動物実験では、腎臓の発生過程での係蹄基底膜の発達、可逆性の Thy-1実験腎炎や不可逆性のanti-GBM実験腎炎での係蹄基底膜の障害や障害からの回復過程、immune complex型の膜性腎症における係蹄基底膜障害について経時的にIV型コラーゲンα鎖による質的な変化や、透過電顕や低真空走査電顕(LV-SEM)による糸球体基底膜の超微形態所見について検討している。また、動物実験モデルでは蓄尿による尿検体を集め、尿中のIV型コラーゲンのα鎖の濃度測定の準備を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、昨年度に行った本邦で最も多い糸球体腎炎である IgA腎症の係蹄障害の検討に続いて、遺伝的な係蹄基底膜障害による菲薄基底膜病の係蹄障害と腎機能の悪化との関連について検討し、菲薄基底膜病では IgA腎症に類似した係蹄基底膜障害所見がみられるが、この係蹄基底膜障害のみでは、高齢期になっても末期腎不全にまで進展する症例が少ないことを明らかにした (Clin Exp Nephrol 2019;23:638-649)。菲薄基底膜病でも高齢期に末期腎不全にまで進展する症例もあるが、これらには動脈硬化や荒廃化糸球体の頻度や尿細管間質障害の程度が関連していた。これらは他の腎疾患にも認められる共通した腎機能の増悪因子であり、菲薄基底膜病に特異的な因子ではない。これらの結果は小児期から発症する菲薄基底膜病の進展を考える上で臨床的意義は大きいと考える。動物実験系でも、腎臓の発生過程での係蹄基底膜の発達、可逆性の Thy-1実験腎炎や不可逆性のanti-GBM実験腎炎での係蹄基底膜の障害や障害からの回復過程、immune complex型の膜性腎症における係蹄基底膜障害についての糸球体基底膜障害の検討が概ね順調に進んでいる。動物実験系では経時的な病理形態的な係蹄基底膜障害所見の観察に加え、蓄尿による尿検体も集積しており、尿中のIV型コラーゲンα鎖の濃度の測定の準備も進めている。臨床の腎生検検体や動物実験モデルの腎検体での係蹄基底膜障害の観察の成果も上がりつつあり、また尿検体の集積も進んでおり、本研究の進捗状況としては概ね順調に研究が進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、糸球体疾患の係蹄基底膜障害をIV型コラーゲンのα鎖の変化により質的に、また、透過電顕および低真空走査電顕(LV-SEM)により超微形態学的に明らかにする。また、尿中のIV型コラーゲンのα3, α4, α5鎖の濃度を測定し糸球体基底膜障害の評価法を確立し、係蹄基底膜障害に関する尿中の新規バイオマーカーの開発を目指している。現在までに臨床検体を用いた検討で IgA腎症と菲薄基底膜病の係蹄障害についての病理学的な解析は論文にして報告し、IV型コラーゲンα5鎖の免疫染色やLV-SEMを用いて超微形態的に観察することにより糸球体基底膜障害を質的に超微形態的に評価することが可能であること示してきた。今後、臨床の糸球体疾患と動物実験系での糸球体疾患での比較検討 (動物実験では経時的な変化を解析することが可能になる)を進める。臨床検体と動物実験系での係蹄基底膜障害を比較検討する。臨床と動物実験で比較することが可能な糸球体疾患として膜性腎症、anti-GBM腎炎、ANCA関連血管炎を想定している。臨床的な膜性腎症とラット膜性腎症モデルであるHeymann腎炎モデルを用いて、臨床症例とラット実験系でのanti-GBM腎炎とANCA関連血管炎を用いて、係蹄壁に沈着したimmune complexと係蹄基底膜障害や、anti-GBM抗体による係蹄障害、NETsや好中球による係蹄障害の質的な変化や超微形態的変化の関連を検討する。動物実験モデルでは、経時的に蓄尿により尿検体を集め、尿中のIV型コラーゲンのα3, α4, α5鎖の濃度を測定し、尿を用いた糸球体基底膜障害の評価法の確立を目指す。そして、尿中IV型コラーゲンのα鎖の濃度と、病理組織所見との関連を確認する。
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次年度使用額が生じた理由 |
動物実験モデルを用いた係蹄基底膜障害の解析を開始しているが、現在のところ解析を進めている動物実験モデルも限られており、また、各動物実験での動物個体数も少なく、十分な解析には至っておらず、得られている成果も限られている。また、動物実験モデルの作成に時間がかかっており、それらの動物実験モデルの解析のための消耗品や、データ解析のためのコンピュータ、研究成果の発表のための予算を使用していない。次年度も引き続き糸球体疾患の動物実験モデルを用いた解析のための実験動物を含めた消耗品費、研究情報の収集のための予算、研究結果の解析のためのコンピュータ、研究成果の発表のために使用する予算を次年度に持ち越して研究を積極的に継続する。
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