研究課題/領域番号 |
17K09719
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
塚口 裕康 関西医科大学, 医学部, 講師 (60335792)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 疾患遺伝子 / シグナル伝達 / 遺伝子変異 / 腎不全 / マウスモデル |
研究実績の概要 |
背景:Mammalian target of rapamycin(mTOR)は、外界刺激に応答する細胞増殖・分化シグナルを制御するマスター分子で、抗腫瘍・免疫抑制薬の標的として注目を集めている。mTORシグナル亢進は、結節硬化症(Tuberous sclerosis:TSC1or 2変異)における腎嚢胞、腫瘍形成のドライバーとして知られている。さらにmTOR経路は優性遺伝型多発性嚢胞腎(Autosomal dominant polycystic kidney disease ADPKD, PKD1 or 2 変異)の発症にも関与している。しかしmTOR経路がどのように嚢胞形成に関わるか、まだ多くは未解決である。 目的:細胞表面受容体Xのプロモーターを用いて、Tsc1コンディショナルKO(Tsc1 flox/flox: 遺伝子X Cre)マウスの作成したところ、偶然にも多発性腎嚢胞を発症した。このマウスの嚢胞の発症機序を明らかにし、嚢胞抑制化に役立つ新しいmTORシグナル阻害標的を同定することを目的とした。方法: Tsc1 flox/flox: 遺伝子XCreマウスの腎組織を用いて、免疫染色、ウエスタン解析、発現プロフィール解析を行い、嚢胞形成に関与する増殖シグナル、アポトーシスの特性を調べた。 結果: Tsc1flox/flox: 遺伝子XCreマウスの腎は、生後7-10日頃から皮質部分の遠位~集合管から嚢胞形成が始まり、生後4週100%肉眼的に腫大した嚢胞を確認できた。嚢胞の組織分布はヒト優性遺伝型多発性嚢胞腎と合致した。嚢胞を縁取る尿細管細胞は、立方型で核異型を伴うものと、扁平なものとが混在しており、一部に、Ki-67, PCNA陽性、P-S6陽性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
疾患モデルマウスは、本学の実験動物共同施設で樹立したもので、継代・維持できている。まず嚢胞の発症機序を理解するため、ネフロンのどの部分で、胎生期のいつごろにTsc1遺伝子が失活する(=mTOR 亢進)しているのか、の評価を行った。コンディショナル欠失に用いたCre酵素の遺伝子Xプロモーターの時空間的発現を LacZやRFPレポーターマウス(Rosa26-stop-LacZ or RFP)を用いて、確認を行った。次に年齢、性別の異なるマウスの表現型を系統的に解析し、mTORシグナルが発達段階、加齢と関連して、どのように嚢胞・がん化に影響するかを評価した。とくに病理組織学的(免疫染色)、分子生物学的(ウエスタン解析)の観点から、重点的に実験を行った。この点に関して文部科学省 新学術領域研究・先端モデル動物支援プラットフォーム 総括支援活動に参加して専門的な助言を受けながら、病理・組織学的解析を進めている。2019年、2020年、2022年の年次成果発表会で、中間成果をポスター発表した。免疫染色(p53, ki-67, アポトーシスなど)は、がん研究会埼玉県立がんセンター(神田浩明博士)、Cre:RPFレポーターマウスの発現解析は岐阜大学(宮崎龍彦博士)との共同研究で実施することで、研究を効率的に推進できた。
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今後の研究の推進方策 |
mTORシグナル伝達の制御の要となるバブ分子には、mTORC1とmTORC2の2種類があり、嚢胞腎では主としてmTORC1 が関与すると考えられている。しかしmTORC2の役割、mTORC1とmTORC2間のクロストーク、さらにmTORC1/2の下流で作用するエフェクターの役割はまだ未解決であり、今後検討したい。 具体的には、まずmTORC1とmTORC2経路の阻害薬の有効性評価である。現在mTOR阻害薬は、古典的なラパマイシン(mTORC1)以外に、第2世代(mTORC1,2両方に作用)、3世代(kinase 抑制を有するRapalinks)などの開発が進んでいる。この情報を基に当モデルマウスにおいて、嚢胞縮小、腎機能低下抑止効果を示す候補薬剤をスクリーニングする。さらにmTOR系路に作用する、既知の化合物の投与法、時期、用量なども検討したい。もう一つのアプローチは、遺伝学的手法を用いる方法がある。今回のPKDモデルマウスと、シグナル分子の特異的な欠失マウスとをかけ合わせたダブルKOマウスを作成して、その表現型を解析する。マウスの腎病変(嚢胞化、がん化)の発症機序を、さらに分子レベル(遺伝子発現プロフィール、Pathway, Network)で検討し、発症の鍵を握る分子とシグナルの情報を明らかにしたい。同時にヒトマウスにおける病態の差異を考慮し、ヒトADPKDの病理標本(手術、剖検)やゲノムDNAを収集して、種差をも考慮しかつ臨床に則した診断・治療の開発へと橋渡ししたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の拡大による研究計画変更等に伴い補助事業期間を延長した。
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