生体は感染防御のため、自ら抗菌物質を産生している。ヒトにおける抗菌ペプチドはディフェンシンと総称され、細菌、真菌など広範囲にわたり抗菌活性を持つ。このうち粘膜上皮の感染防御に関与しているのがα-とβ-ディフェンシンである。αディフェンシンは腸内細菌の組成を制御することによって腸内環境の恒常性を保っていることが明らかになっている。腸内細菌叢変化にディフェンシンの発現変化が関与していることが推測されるが、慢性腎不全病態におけるディフェンシン発現変化を検討した報告はない。そこで、腎不全進行に伴う腸管でのディフェンシン発現変化を検討した。ネフローゼ腎不全モデルマウスICGNマウスでは、コントロールのICRマウスに比較し、Defa1、Defa-r52、Defb37の遺伝子発現が有意に低下していた。アデニン誘導腎不全マウスでも同様にこれら遺伝子は発現低下していた。その発現は腎不全の程度と相関していた。 腸内で産生された腐敗産物がディフェンシン発現与える影響を回腸部腸管のex vivo cultureで検討した。インドキシル硫酸、Pクレゾール、インドールの添加により、培養上清中のDefa1タンパク量は低下していた。 Wntシグナル伝達経路のリガンドであるR-spondin1はディフェンシン分泌細胞である腸管のパネト細胞を増殖させる。R-spondin1添加培養液では腐敗産物によるディフェンシン発現が有意に改善していた。肝臓でR-spondin1を過剰発現させたICGNマウスでは、腸管のDefa1、Defa-r52、Defb37の遺伝子発現低下が改善し、腸内細菌叢もClostridium属が低下し、Bacteroides属が増加し、コントロールICRマウス細菌叢に近づいていた。
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