研究実績の概要 |
検討した98個の腎臓由来尿蛋白質のうち、4個(A, B, C, D)がIgA腎症患者尿で増加していた。A,Cは腎臓の中でも糸球体上皮細胞に由来、Bは腎臓間質、Dは腎臓近位尿細管細胞に、それぞれ由来する尿蛋白質であった。バイオマーカーAの尿中排泄量は蛋白尿の程度、および細胞性半月体形成糸球体の割合と弱く正に相関していたが、腎機能(eGFR)とは相関がなかった。IgA腎症のうち蛋白尿陰性者に限っても、健常者との比較で尿中Aは有意に増加していた。感度(IgA腎症患者のうち尿中A高値)は67%で、蛋白尿陰性者に限っても58%と比較的高値であった。尿バイオマーカーBの尿中排泄量は、IgA腎症のうち蛋白尿陰性者に限ると、健常者と有意差がなかった。Bの尿中排泄は蛋白尿の程度とも腎機能とも相関がなかった。特異度(非患者のうち尿中B低値)は99%で、また陽性的中率も93%と極めて高いが、感度は16%程度であり、スクリーニングには向かないと考えられた。尿バイオマーカーC, Dの感度はいずれもAより低く、またIgA腎症のうち蛋白尿陰性者に限ると、健常者との比較で尿中排泄は有意に増加していなかった。また尿中A陰性IgA腎症でCまたはDの尿中増加が確認された症例はなかった。以上より、スクリーニングや早期発見の目的では、尿中Aが最も有用と考えられた。既報の尿バイオマーカーとして、B2M, L-FABP, KIM-1, CALB1, TF, clusterinの検討を併せて行った。これらすべての尿中排泄が、健常者に比較しIgA腎症患者で高値であった。なかでもKIM-1は感度、特異度、陽性的中率のいずれも最も高く、また蛋白尿陰性のIgA腎症患者尿の多くで増加していた。以上より、蛋白尿の少ない早期のCKDの診断に、尿中KIM-1と新規Aの測定が有効と考えられた。
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