研究課題
生活習慣病(肥満、糖尿病や高血圧など)などにより慢性腎臓病(CKD)のリスクとなる患者の増加を背景として、CKD患者数は増加の一途を辿り、透析導入数は年々上昇している。そのため、新たな先制治療戦略が必要であることは周知されている。 CKDの予後悪化因子である高リン血症は、早期からの全身性リン代謝異常により生じるとされるが、詳細は不明である。本研究の目的は、これまでの申請者らの研究で得られた新規概念である『肝リン利尿因子が繋ぐ多臓器連関制御』の解明をすることである。申請者らは肝臓切除後NAD+合成律速酵素であるNamptが腎臓リン排泄に関与することを初めて提示した(TatsumiJ Am Soc Nephrol. 2014)。想定される肝利尿因子とNamptを介した新しいリン代謝系は、1)各組織へのリン移行調節を担う 2)リン代謝の日内リズム形成の中心であることを証明する。平成29年度は、肝臓特異的Nampt欠損マウス、腸管上皮細胞特異的Nampt 欠損マウス、全身性Namptへテロ欠損マウスの安定した作出を可能にし、計画に従いリン代謝の詳細な解析を試みた。 これらの遺伝子組み換えマウスの解析結果から、我々の想定する『肝リン利尿因子が繋ぐ多臓器連関制御』システムには、肝臓Namptが必須であり、そのシステムの存在を裏付けた。さらに血中リン濃度の日内リズム形成においても、肝臓Namptが必須である可能性を見出した。これらの想定する制御系のさらなる解明と、肝リン利尿因子の同定をする必要がある。
2: おおむね順調に進展している
本研究の初年度の目的は、1)Nampt 遺伝子組み換えマウスのリン代謝動態解析 2)全身の各臓器へリン組織移行の検討、3)リン代謝の日内リズムにおける肝利尿因子、Nampt関与の検証であった。各遺伝子組み換えマウスの基本的なリン代謝について検討した。腸管上皮細胞特異的Nampt欠損マウスではリン吸収、および尿中リン排泄の著しい上昇を示した。また、全身性Namptヘテロ欠損マウスでは血中リン濃度が低下傾向を示した。 肝臓特異的Nampt欠損マウスの血中リン濃度は著しく上昇することがわかった。これには既存のリン代謝調節ホルモンの影響を受けないことも明らかとなった。さらにアイソトープを用いたトレーサー実験より、肝臓Nampt欠損マウスでは、リンの組織内移行の異常が認められた。肝リン利尿因子発現にはNamptが必須である可能性が示唆された。さらに野生型マウス、これらの遺伝子組み換えマウスの血中リン濃度の日内リズム形成の詳細を明らかにすることができた。この血中リン濃度の日内リズム形成にも、Namptを介した肝リン利尿因子が関与する可能性が示唆された。そのため、平成29年度の研究は研究計画に沿って概ね順調に進んでいると判断した。
これまでの我々の研究で得られた新規概念であるリン代謝の恒常性維持において『肝リン利尿因子が繋ぐ多臓器連関制御』の存在を明らかにし、解明することが本研究の目的である。初年度には、このシステムの存在を明らかにし、Namptが肝リン利尿因子の発現および、多臓器に渡ってリン代謝を制御する可能性を見出した。次年度以降は1)肝利尿因子の同定をさらに進めること2)CKDモデルマウスを用いて、NamptとCKD病態の進展の関与について明らかにしする。これらの成果により、CKDの早期リン代謝異常の改善による異所性石灰化予防、リン管理(食事時間、食事法)腎保護を考慮した先制治療の構築に貢献するため、研究を推進していく。研究遂行上で問題が生じた場合は連携研究者、研究協力者と協議しながら、問題解決をおこない研究計画を遂行する。
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