研究課題
慢性腎臓病(CKD)のリスクとなる患者の増加抑止するためには、新たな先制治療戦略が必要であることは周知されている。CKDの予後悪化因子である高リン血症は、早期からの全身性リン代謝異常により生じるとされるが、詳細は不明である。本研究の目的は、これまでの申請者らの研究で得られた新規概念である『肝リン利尿因子が繋ぐ多臓器連関制御』の解明をすることである。平成29年度は、肝臓特異的Nampt欠損マウス、腸管上皮細胞特異的Nampt 欠損マウス、全身性Namptへテロ欠損マウスの安定した作出を可能にし、我々の想定する『肝リン利尿因子が繋ぐ多臓器連関制御』システムには、肝臓Namptが必須であり、そのシステムの存在を裏付けた。これらの成果に基づき平成30年度では、「肝利尿因子によるNampt/NAD+系の活性化が血中リン濃度、尿中リン排泄の日内リズムを制御する」ことに取り組んだ。まず、肝臓特異的Nampt欠損マウスにおいて、より詳細にリン代謝を解析したところ、血中リン濃度の日内リズムは異常をしめすことが明らかとなった。肝臓特異的Nampt欠損マウスでは、休息期(明期、絶食中)に著しい血中リン濃度の上昇を認め、食後、血中リン濃度は正常化することがわかった。また尿中リン排泄は、野生型と比較して著しい上昇を認めることが明らかとなった。肝臓Nampt欠損はリンの組織移行を抑制し、さらに組織からのリン排出を増加させる可能性を明らかとした。一方、高リン血症であるCKDモデルマウスにおいて、著しい肝臓Nampt/NAD+系の活性が低下していることを見出し、Nampt酵素活性を上昇させる治療を施すことで、大きく腸管リン吸収を抑制することなく血中リン濃度を正常化できることを明らかとした。これらは、Nampt/NAD+系の活性化因子である肝リン利尿因子の存在をさらに裏付けると考えられた。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究計画通り、平成30年度は「肝利尿因子によるNampt/NAD+系の活性化が血中リン濃度、尿中リン排泄の日内リズムを制御する」可能性を明らかにすることができた。さらに慢性腎不全モデルでの組織中のNAD代謝異常を見出すことができた。さらに、Nampt/NAD+の活性は、リンの組織への移行を制御する可能性を明らかとした。本年度の成果は、我々が想定する肝利尿因子がNampt/NAD系を制御し、腎機能が低下したCKD患者においてもリン組織移行を正常化し、異所性石灰化を抑止する可能性を裏付けるものである。また、次年度の研究計画にある、肝利尿因子探索に用いる肝臓培養細胞系の構築も進めることができたため、本研究はおおむね順調に進んでいると考えられた。
概ね研究計画通りに進んでいることから、当初の平成31年度に取り組む研究課題を推進していく予定である。主に、肝リン利尿因子の探索を中心に研究し、候補因子については、CKDモデルマウスの腎機能低下を抑止できるかどうかを検討する予定である。
研究は概ね計画通りに進んでいる。当初の計画よりも、実験の失敗が少なかった点、また国際学会での発表を自費でまかなったために、予算が残ったため、次年度使用額が生じた。次年度の使用計画として、最終年度は高額な解析費用がかかる計画があるため、消耗品の予算に計上して使用する。
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