研究実績の概要 |
本研究では一過性の塩分負荷に伴う腎臓各部位のエピゲノム変化を検討した。DOCA-salt高血圧モデルマウス、すなわち酢酸デオキシコルチコステロン(DOCA)と飲水1%塩化ナトリウムを14日間負荷して高血圧としたマウスを負荷中止後21日間観察した。コントロール群は通常の水を与えた。これらマウスの血圧, 腎組織, 遺伝子発現を検討した。遺伝子発現は血管リモデリングに関与するMMP2,9、Collagen1,4を検討し、さらには免疫染色でヒストンアセチル化を評価し、ChIP assayで遺伝子の特定領域におけるヒストンアセチル化を評価した。一過性の塩分負荷に伴い、マウスにおいてもラット同様腎細動脈の中膜肥厚が進行し、塩分負荷中止後も中膜肥厚が持続していた。中膜肥厚に伴う局所腎血流の低下からレニン発現が亢進することで、塩分負荷中止後の血圧上昇が生じると考えられた。レーザーキャプチャーマイクロダイセクション(LCM)法を用いて腎細動脈の遺伝子発現を検討すると、MMP2,9の発現は塩分負荷で亢進し、負荷中止後も発現亢進が持続していた。続いて、腎細動脈, 腎分節動脈, 糸球体, 近位尿細管の細胞核の染色濃度を定量し、塩分負荷に伴うヒストンアセチル化の変化を検討した。腎細動脈平滑筋では、塩分負荷でヒストンアセチル化が亢進し負荷中止後も持続していた。糸球体メサンギウム細胞ではベーサルの状態からヒストンアセチル化が亢進しており、塩分負荷で有意な変化を認めなかった。近位尿細管細胞では塩分負荷でヒストンアセチル化が亢進し、負荷中止後に復旧した。 これらの結果より、塩分負荷に伴う腎細動脈の中膜肥厚の形成・維持に、腎細動脈特異的なヒストンアセチル化の亢進が関与したと考えられ、塩分負荷に伴うエピゲノム変容を標的とした高血圧治療の可能性が示唆された。
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