長寿と関連した分子であるSirt3はNAD依存性のヒストン脱アセチル化を介して、遺伝子発現を制御すると考えられており、加齢に伴うその発現低下が耐糖能障害等の発症に関与すると報告されている。野生型マウス各臓器においてSirt3発現プロファイルを検討したところ、塩分吸収・排泄と高血圧発症に関与する臓器である、小腸、大腸、腎臓でSirt3発現が優勢であった。そこで我々は腸管・腎臓での塩分吸収・再吸収におけるSirt3の意義を解析する目的で、Sirt3全身欠損マウス(Sirt3KOマウス)の血圧・体重、尿中・便中Na排泄、体内水分量などのパラメータの評価、PCR法による腸管・腎臓での塩分吸収に関与する遺伝子の発現解析を行った。6週齢の若齢Sirt3KOマウスは野生型マウス(Wt)と比較して、塩分負荷前後で一貫して、血圧が低値で推移した。血圧を規定する因子のひとつである体内水分量をSirt3KOマウスにおいてインピーダンス法で検討したところ、体重が両群同等であるにも関わらずSirt3KOマウスでは野生型マウスに比して体内水分量が低値で、脱水で亢進する腎臓組織でのレニン遺伝子発現は、Sirt3KOマウスで有意に高値であった。体内水分量を規定する尿中・便中のNa排泄を検討したところ、Sirt3KOマウスでは尿中Na排泄量が有意に低いのに対し、便中Na排泄量は有意に高値であった。腸管での塩分吸収を担う分子であるNa/H exchanger 3 (NHE3)の発現は、Sirt3KOマウスの小腸・大腸で有意に低下していた。以上よりNHE3低下に伴う便中Na排泄の増加が、Sirt3KOマウスにおける体内水分量低下、血圧低下の一因となると考えられた。これらの結果より、高齢者にみられる塩分喪失に、加齢に伴うSirt3発現低下が関与する可能性が示唆された。
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