研究課題/領域番号 |
17K09744
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長谷川 隆文 東北大学, 医学系研究科, 准教授 (70361079)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | パーキンソン病 / メンブレントラフィック / DNAJC13 / αシヌクレイン / エンドソーム / アクチン / ショウジョウバエ / ドパミン神経変性 |
研究実績の概要 |
パーキンソン病(PD)の原因遺伝子の多くは、メンブレントラフィックに関与していることが判明している。また、変性疾患関連の病態仮説として注目されているプリオン様伝播現象においても、メンブレントラフィックが重要な役割を担っていることが指摘されている。本研究は(i) PARK21家族性PD原因遺伝子として最近同定されたエンドソーム関連分子DNAJC13と神経変性の関連、 および(ii)異常タンパク伝播阻止に立脚したPD進行抑制治療法開発の2つのテーマを掲げ、メンブレントラフィックからみたPD発症機序解明・根治療法開発を目的とするものである。H29年度は上記課題のうち、(i) エンドソーム関連分子DNAJC13とαシヌクレイン蓄積、神経変性の関連について培養細胞やショウジョウバエモデルを用いた研究を実施し、以下の事実を明らかにした。①細胞内で産生あるいは細胞外から取り込まれたαシヌクレインは、一旦細胞内輸送により集荷場である初期エンドソームに集められる。その後は、後期エンドソームへ運ばれ分解処理を受けるか、リサイクルエンドソームにより細胞外に分泌される。②PD関連N855S変異型DNAJC13存在下では、αシヌクレインが初期エンドソームに滞留したままとなり、下流のエンドソームコンパートメント(後期エンドソーム)に到達出来ず蓄積してしまうことが判った。その原因として、初期エンドソーム上で足場を提供するアクチンの形成が著しく障害されていることを突き止めた。③さらに、異常DNAJC13が神経細胞機能にもたらす影響について、ショウジョウバエモデルを用いた検証実験を行った。その結果、異常DNAJC13を発現するハエにヒト野生型αシヌクレインを過剰に発現させると、ハエ脳内に不溶性のαシヌクレインが蓄積すると共に、複眼の形態異常、脳内ドパミン神経脱落および運動機能が顕著に悪化することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
H29年度に予定していた変異型DNAJC13発現による細胞内輸送障害・αシヌクレイン代謝異常・細胞毒性の検証について、(a)野生型および変異型DNAJC13過剰発現細胞を用いた細胞内輸送系の解析、(b)DNAJC13/dRME-8 RNAiショウジョウバエモデルを用いた表現型解析は予定より早く進行することが出来、H30年度の予定であった(c)野生型および変異型DNAJC13 Tgショウジョウバエモデルを用いた表現型解析にも前倒しで着手することが出来た。これらの研究成果は、関連国際誌2つ(Yoshida S, Hasegawa T, et al., Human Molecular Gennetics 2018 Mar 1 ; 27(5): 823-836、および Hasegawa T, Yoshida S, et al., Front Neurosci 2018 Jan 10 ; 11: 743)に報告し、さらにH30.2月に東北大学・大阪大学ホームページより共同プレスリリース済みである(脳内の交通渋滞がパーキンソン病を誘発する~悪玉タンパク蓄積・神経細胞死に至るメカニズムが明らかに~)。
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今後の研究の推進方策 |
H30年度は予定課題である(ii) αシヌクレイン細胞間伝播阻止に立脚したPD進行抑制治療法の開発に取り組む予定である。具体的には線維化組換えマウスαシヌクレインを大量精製し、老齢マウス脳に接種し脳内伝播モデルを作成する。すでに予備実験において線維化αSYNをマウス脳の一側線条体へ直接注入し、投与1ヵ月後の段階において、対側大脳皮質にSer129リン酸化αシヌクレイン病変が拡大することを確認している。同モデルを用い、免疫組織化学法、WB法、およびThioflavin S染色法を用いた経時的かつ定量的病理像の評価系を確立する。また、上述のマウスモデルに超音波印加型ultrasound-facilitated drug delivery(UFD)を併用し、マウス片側線条体の広範囲にαシヌクレインを注入することで、脳表への逆流が減るとともに対側大脳への病変拡大効率が高まり、より短期間に効率のよい脳内伝播を可能とするin vivoモデル構築を試みる。線条体は、尾状核・被核などの複数要素から構成され、脳内の種々の部位と神経回路を形成している。単に線条体と称した場合においても、その内部構造における解剖学的な部位依存性に、αシヌクレイン病変拡大への影響が異なる可能性がある。従来の単純注入法と比較して、UFD装置法によるαシヌクレインの投与は線条体という体積を持った構造物全体に対して目的タンパク質を接種することが可能となる。結果として、投与部位の違いに起因した病変拡大への影響を均一化するとともに、異常蛋白の伝播を促進することとなり、より正確にαシヌクレイン脳内伝播阻害効果が確認できることが期待される。
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備考 |
Yoshida S, Hasegawa T, et al., Human Molecular Gennetics 2018 Mar 1 ; 27(5): 823-836の論文内容についてのプレスリリースである。
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