研究実績の概要 |
本年度はパーキンソン病(PD)におけるαシヌクレイン(αS)プリオン様伝播現象に関連して、αSの細胞内への取り込み現象の解明に重点をおき研究を進めてきた。まず、哺乳動物の脳幹カテコラミン神経細胞に高発現し、PD患者脳で発現が亢進しているラフト関連分子フロチリン-1に着目し細胞生物学的な解析を進めた。その結果、細胞外モノマー・線維化αSが、ドパミン神経細胞表面に発現するドパミントランスポータ-(DAT)とフロチリン-1の会合を強化し、細胞表層でのDATのpre-endocytic clustering・endocytic uptakeをを誘導することで、DATトランスポーター活性を低下させることを発見した。さらに、DATのエンドサイトーシスに便乗して細胞外αSが細胞内へ侵入し、Rab7陽性の後期エンドソームに蓄積すること、さらに、実際にPD患者脳内のレビー小体にDAT、フロチリン-1、Rab7が局在することを確認した(論文投稿中)。 上記課題と併行して、神経・グリア細胞表面に発現するαS受容体の網羅的探索にも着手した。まずマウス全脳を出発材料として、由来の膜蛋白質ライブラリー(membrane Protein Library, MPL)を作製し、高速ペプチドーム解析法であるBLOTCHIP-質量分析法(Protosera, Inc)を用いたハイスループット網羅的解析を実施した。その結果、一次スクリーニングでヒットした106分子から、細胞表層に発現する線維化αS受容体候補分子5つを同定した(学内発明委員会に申請済み、特許出願準備中)。これらは過去にαS受容体として報告された分子(LAG-3、TLR2/4、Na+/K+-ATPase)とは異なる新規の分子であった。現在、培養細胞系を用い線維化αSと受容体分子の特異的結合ならびにαS細胞内取り込みへの影響を確認中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題で予定していた2つの課題、即ち、(i) PARK21家族性PD原因遺伝子として最近同定されたエンドソーム関連分子DNAJC13/RME-8と神経変性の関連、 および(ii)異常タンパク伝播阻止に立脚したPD進行抑制治療法開発のうち、前者については昨年度までに研究を進展させ、以下の事実を明らかにした:(1)N855S変異型DNAJC13発現COS7細胞では初期エンドソーム内にaSの異常蓄積を認め、(2)初期エンドソームから後期エンドソーム・リサイクルエンドソームへの積荷輸送が障害されていた。(3)変異型DNAJC13陽性エンドソーム上において、エンドソームのtubulationに重要なアクチンフィラメント形成が顕著に阻害され、初期→後期エンドソームの成熟障害が観察された。さらに、(4)ヒトN855S変異型DNAJC13 TgハエにヒトaSを過剰発現させると、複眼変性および運動機能が著明に悪化すると共に、ハエ脳内にProteinase K耐性aS蓄積が惹起されることを発見した。以上の結果については既に関連国際誌2つに論文発表済みである(Yoshida S, Hasegawa T, et al., Hum Mol Genet 2018、Hasegawa T, Yoshida S, et al., Front neurosci 2018)。後者の課題である異常タンパク伝播阻止に立脚したPD進行抑制治療法開発に関しても、前述の研究実績の概要に述べた通り、αSの細胞内への取り込み現象におけるDAT、フロチリン-1に関する新知見を論文投稿するとともに、線維化αS受容体候補分子の同定に成功するなど、当初の計画以上に進展している。
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