研究実績の概要 |
筋萎縮性側索硬化症(ALS)ではTDP-43が細胞質内に凝集し蓄積する。TDP-43は自身のpre-mRNAに結合し、選択的スプライシングを惹起し、その発現量を自己調節している。しかし、ALS運動ニューロンでは、核内TDP-43が減少し、ネガティブフィードバックが働かず、細胞質内のTDP-43 mRNA発現が増加している(Koyama A, et al., Nucleic Acids Res. 2016)。つまり、TDP-43の凝集、核内TDP-43の減少により、TDP-43発現は亢進し、さらなる凝集の加速という悪循環の病態が示唆される。 そこで我々は、この悪循環へ至る契機やそれを駆動する因子を特定し制御することを本研究の目的とした。まず、自己調節を含むTDP-43の細胞内動態を模したin silico モデルを構築し解析した。このモデルでは、TDP-43の凝集性亢進、核内移行効率の低下、断片化産物の分解効率の低下といったALS関連遺伝子の機能に関わる擾乱に対して細胞は脆弱性を示し、このとき自己調節のロバスト性を支える転写の冗長性が悪循環を駆動した(Sugai A, et al., Front Neurosci. 2018)。実験的に、アンチセンスオリゴを用いて選択的スプライシングを抑制し、転写の冗長性を顕在化させた結果、マウス脊髄において不溶性TDP-43の増加と断片化、運動ニューロン数の減少を認めた(Sugai A et al., Neurobiol. Dis. 2019)。これらより、転写の冗長性の病態への寄与が示唆されたため、次に、この制御による病態抑制効果を明らかとする実験モデルを着想した。この解析のための、アンチセンスオリゴの配列と投与方法を確立した。現在、TDP-43が蓄積する動物モデルを用い、この治療モデルの検証を進めている。
|