研究課題/領域番号 |
17K09755
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小澤 大作 大阪大学, 医学系研究科, 特任助教 (60554524)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ポリグルタミン蛋白質 / アミロイド / 神経変性疾患 / プリオン |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病やプリオン病、ポリグルタミン病などの神経変性疾患では、異常構造に変化した蛋白質が、正常構造の蛋白質に異常構造を伝播し異常構造に変化させることで、アミロイド線維と呼ばれる蛋白質の異常な凝集体を細胞内外で形成し、神経変性を引き起こすと考えられている。一つの仮説として、プリオン病では、プリオン蛋白質モノマー間で異常構造の伝播が起きると推測されているが、過渡的に形成される異常構造モノマーの検出が困難であることから、その詳細は未解明である。さらに、他の神経変性疾患関連蛋白質でこのようなプリオン様の異常構造伝播が起きるかは不明である。 平成29年度は、モデル蛋白質として、モノマー状態での正常構造(αへリックス)から異常構造(βシート)への異常構造転移を検出できるチオレドキシン融合ポリグルタミン蛋白質(Thio-polyQ)を用い、①Thio-polyQのαヘリックスからβシートへの転移を規定する物理化学的因子の解明、②異常構造転移の伝播性の証明、③βシートモノマーによるβシート構造伝播の解明を目指した。濁度測定や円偏光二色性測定、nondenaturing PAGEの結果から、βシートThio-polyQモノマーの少量の添加により、αへリックスThio-polyQモノマーのβシート転移が促進されることを明らかにした。また、そのβシート転移したThio-polyQには、モノマー状態の分子種が含まれていた。以上の結果から、異常構造Thio-polyQは正常構造Thio-polyQへ異常構造を伝播することが示され、モノマー間で伝播が起きている可能性が示唆された。このような異常構造伝播は、神経変性疾患関連蛋白質に共通する普遍的な機構かもしれない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度は、①Thio-polyQのαヘリックスからβシートへの転移を規定する物理化学的因子を明らかにし、βシート構造へと転移したモノマーのこれまでの精製法に加えて、さらに安定的に単離できる条件を確立する。②単離したβシートThio-polyQを、αへリックス構造をもつThio-polyQモノマーや通常はアミロイド線維を形成しない鎖長の短いThio-polyQに添加し、異常構造転移の伝播性を明らかにする。③βシートモノマーおよびシードによるβシート構造伝播の解析を行い、シードのみならず異常構造を持つモノマー単独でも、正常な蛋白質に作用し、異常構造の伝播を起こすことを明らかにする。以上の3つの研究を計画していた。いずれの計画もおおむね順調に進展し、βシートThio-polyQがαへリックスThio-polyQへ異常構造を伝播することが明らかになり、モノマー間での伝播が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究計画では、 ①等温滴定型熱量計により、βシートThio-polyQモノマーとαへリックスThio-polyQモノマーや鎖長の短いThio-polyQの蛋白質間相互作用の熱変化を直接検出する。溶液中でのポリグルタミン蛋白質間相互作用のエンタルピー変化を求め、得られた結果を熱力学的に解析することで、ポリグルタミン蛋白質間の相互作用の駆動力を明らかにし、異常構造伝播の特性を見出す。また、安定同位体ラベルを行ったThio-polyQモノマーを作製し、βシートThio-polyQモノマーを添加した時のスペクトル変化を核磁気共鳴測定により検出し、アミノ酸残基レベルでの蛋白質間相互作用を解明し、異常構造の伝播の詳細な分子機構を明らかにする。 ②βシートThio-polyQモノマーが実際に、細胞レベルで異常構造転移の伝播・感染に関与していることを明らかにするために、申請者の研究室で既に樹立しているGFP融合ポリグルタミン蛋白質の安定発現PC12細胞を用いて、βシートモノマーをマイクロインジェクターにより細胞内へ導入、または細胞培養液に添加し、細胞内でのβシートThio-polyQモノマーと正常モノマーの蛋白質間相互作用を、異なる蛍光ラベルを行ったポリグルタミン蛋白質による蛍光共鳴エネルギー移動により検出する。さらには、細胞内での凝集体形成を蛍光顕微鏡により観察し、細胞レベルでの異常構造転移の伝播性を明らかにする。 以上の結果から、ポリグルタミン蛋白質による異常構造転移の伝播機構の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に計画していた研究が、おおむね順調に進展し、計上していた消耗品費の出費が抑えられたために、次年度使用額が生じた。平成30年度では、等温滴定型熱量測定や核磁気共鳴測定、培養細胞を用いた研究を計画しており、これらの研究に必要となる薬品やガラス・プラスチック器具の購入費、また第18回日本蛋白質科学会年会などの旅費として使用する予定である。
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