研究課題/領域番号 |
17K09758
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研究機関 | 佐賀大学 |
研究代表者 |
原 英夫 佐賀大学, 医学部, 教授 (00260381)
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研究分担者 |
中山 功一 佐賀大学, 医学部, 特任教授 (50420609)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 脳アミロイド血管症 / バイオ3D プリンター / スフェロイド / Aβ40/42 / アミロイド前駆蛋白遺伝子 |
研究実績の概要 |
脳アミロイド血管症は血管壁に主としてAβ40が蓄積し血管壁が脆弱となり、正常血圧でも血管が破綻し、しばしば大脳皮質下の大出血を起こす疾患である。これまで多くのアルツハイマー型認知症の動物モデルであるトランスジェニックマウスが作成されてきたが、脳アミロイド血管症は再現されておらず病態機序解明や治療法開発に苦渋している。我々のグループは従来の再生医療/ティッシューエンジニアリングの手法とは全く異なるアプローチで、細胞凝集塊を積み上げることにより、任意のXYZ の位置に複数の細胞を配置することにも成功し、細胞だけで任意の形状の細胞構造体を作る手法(Bio Rapid prototyping system;以下BRP)を確立した。また数社の企業と共同開発したロボットシステムにより、細胞だけで立体的な構造体を作成するいわゆるバイオ3D プリンターの開発に成功し、線維芽細胞と内皮細胞、平滑筋細胞の組み合わせで、他所にはみられない弾力性を持ったチューブ状の細胞構造体を作成することに成功した。今回、この基盤を応用し細胞のみで構成した小口径Scaffold free 細胞チューブを用いて脳アミロイド血管症のモデルを作成し、その病態生理を解明することを目的として研究している。今年度は、Bio Rapid prototyping systemとバイオ3D プリンターを用いて、脳アミロイド血管症のモデル血管をin vitroにおいて作成を試みた。スフェロイドの実験ではNHDF(40%)/SMC(60%)のスフェロイドもしくはコンストラクトを作りAβ40の溶液に入れ細胞にAβが付着するのかを行い、次にAβ40と42の時間(1,4,8,12,24時間)と濃度(0.25, 0.5, 1.0 μM)に対する付着の進行度を調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は細胞凝集塊を積み上げることにより、任意のXYZ の位置に複数の細胞を配置することにも成功し、細胞だけで任意の形状の細胞構造体を作る手法を確立した。接着系細胞が有する基本的機能である細胞凝集現象により、細胞を低接着性のwellに置いておくだけで細胞同士が融合し球体(細胞凝集塊、スフェロイド)が形成される。ヒト線維芽細胞(Normal Human Dermal Fibroblast;NHDF)と平滑筋細胞(Smoots Muscle Cell ;SMC)を用いてスフェロイドを作りAβが細胞に付着するか実験を行った。NHDF(40%)/SMC(60%)の比率でスフェロイドを融合させコンストラクトを形成し、これを各種濃度のAβ40を含む培養液に入れ24時間培養し細胞表面に付着したAβを免疫染色で確認した。Aβ40の濃度の0.25, 0.5 μMではAβの付着は観察できなかったが、1.0 μM濃度ではスフェロイド表面にAβの付着を確認できた。次に、管腔構造を持つコンストラクトのチューブ型を作りAβが細胞に付着するか実験を行った。NHDF(40%)/SMC(60%)のスフェロイドを剣山に挿入し細胞を融合させ管腔構造のチューブを作成した。一方、神経芽細胞株SHSY-5Yにアミロイド前駆蛋白遺伝子(APP)を安定発現させた細胞株を作成した(SHSY-APP)。この細胞株の培養上清中にはAβ40は600.6pg/ml, Aβ42は46.4pg/mlの濃度で含まれている。管腔構造のチューブをSHSY-APPの培養上清の中で1~5週間培養し、細胞表面に付着したAβを免疫染色で確認した。培養1週後より細胞表面にAβ40の付着を確認し2週目までは増加したが、以降は細胞死が起こり始めたので現在はこの培養上清の比率を変えて細胞死が起こらない条件設定を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
現在、血管を構成している3種類の細胞、NHDF/SMC/Huvec (Human umbilical vein endothelial cell; ヒト臍帯静脈内皮細胞)を用いてスフェロイド形成後、3Dプリンターを用いて積層を行い血管を作成した。どのような細胞の組み合わせで最も脳血管に生理学的に近似した血管用細胞構造体を製造できるか規格の検討している。その後、各種濃度のAβ40を含む培養液に入れて培養し細胞表面にAβが付着する実験を行い脳アミロイド血管症のモデルを作成する。コントロールの血管とAβ40ペプチドを加えた血管の力学的強度、生理学的機能、分子生物学的機能を解析する。次に脳アミロイド血管症のモデルとコントロール血管の組織学的病理学的解析を行う。Aβ40ペプチドの血管壁の沈着部位、その周囲の内皮細胞や平滑筋、アストロサイトの足突起の形態を詳細に解析する。さらに脳血液関門の生理学的機能についても両者で比較する。例えば物質透過性、ICAM-1など種々の接着分子の発現状態などを免疫組織学的にも検索する。血管培養中に内皮から分泌される炎症性サイトカイン(IL-1, IL-12, TNF-γ, IFN-αなど)はELISA法で測定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は主として細胞実験を行ったが、培養に用いる血清などが見積もりより安く購入できました。 次年度に動物実験を予定しており、そのための動物の購入費用や飼育施設利用代金、餌代金などに充てる予定です。
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