研究課題/領域番号 |
17K09768
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研究機関 | 国立感染症研究所 |
研究代表者 |
中道 一生 国立感染症研究所, ウイルス第一部, 主任研究官 (50348190)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 脳神経疾患 / ウイルス / 進行性多巣性白質脳症 / 感染症 / 検査 |
研究実績の概要 |
進行性多巣性白質脳症(Progressive Multifocal Leukoencephalopathy: PML)は主として免疫不全を背景に発症する致死的な脱髄疾患であり、JCウイルス(JCV)が脳内で増殖することで引き起こされる。PMLに対する根本的治療法は確立されていないが、早期の診断、免疫抑制の解除および治療薬候補の投与による進行の停止や改善が報告されている。また、PMLの診断において鑑別を要する神経感染症が存在するため、JCVを含む広範囲な病原体を標的とした鋭敏な検査が有用である。 本研究は、「過去10年以上にわたって集積されたPML疑い患者の脳脊髄液検体および臨床情報を後方視的に解析し、神経感染症の早期診断において有用な超高感度PCR検査系を実用化する」ことを目的とする。 平成29年度では、約1,500名のPML疑い患者の臨床情報を含むデータベースを更新し解析した。また、脳脊髄液中に放出された極微量のJCVゲノムDNAをより確実に検出するために、PCR検出系の改良を行った。JCV-T遺伝子上の必須領域において、通常のリアルタイムPCRよりも非常に短い塩基配列を標的とすることで、検出効率を高めることに成功した。 109名のPML疑い患者の脳脊髄液を対象として、従来法ならびに改良型のPCRの検出感度を比較した。改良型PCRを用いた超高感度検査は従来法よりもさらに高い検出感度を有した。 また、JCV陽性と判定された患者の臨床情報を後方視的に解析したところ、PMLとして矛盾のない基礎疾患および各種所見を有していた。加えて、超高感度PCR検査を実施した場合には、基礎疾患が認められない後期高齢者において脳脊髄液JCV陽性者が散見されたことから、加齢に伴う中枢神経病変とJCVとの関連性が示唆された。 本研究において改良を施した超高感度PCR検出系は、PMLの診断において有用である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従って、PML疑い患者の広範な情報を有するデータベースを更新した。また、PCR検出系に改良を施すことによって検出効率を高めた超高感度検査系を確立し、実際にPML患者および疑い患者の脳脊髄液を用いて有用性を示した。さらに、超高感度検査によって脳脊髄液JCV陽性と判定された患者の臨床情報を後方視的に解析することで、これまでの日本国内において関心が低かった高齢者におけるPML症例についての知見を収集した。他方、脳脊髄液中に極微量のJCVを検出した場合、それらのウイルスのゲノムにおける変異を超高解像度融解曲線分析法によって解析することは困難であったことから、他の検出技術の開発が必要であると考えられた。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度以降の本研究では、前年度に引き続いてPML疑い患者の臨床情報についてのデータベースを更新する。また、前年度に確立した超高感度PCR検査を臨床検査において使用することで、その有用性を評価する。特に、頭部MRIにおいて病変が認められるものの臨床徴候が認められない早期のPML(無症候性PML)の段階で脳脊髄液JCVを超高感度検査によって検出しうるか否かに注目する。また、脳脊髄液中に検出されたJCVに病原性を有する変異が生じているか否かを判別するためのマルチプレックスPCR法を開発する。加えて、PML疑い症例の脳脊髄液を対象として次世代シーケンサーによる解析を行い、JCV以外に標的となりうる病原体を検索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由) 年度末納品等にかかる支払いが平成30年4月1日以降となったため、当該支出分については次年度の実支出額に計上予定。平成29年度分についてはほぼ使用済みである。 (使用計画) 上記のとおり。
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