研究課題
パーキンソン病は主に50~60代で発症し、静止時振戦、無動、筋固縮、姿勢反射障害などを呈する進行性の神経変性疾患であり、現在の治療は薬剤による対症療法および外科手術であり、完治を実現する根治療法は開発されていない。発症機序は十分に解明されておらず、第1の要因である加齢に加え遺伝的素因や環境有害物質などが関与する多因子疾患と考えられているが、ミトコンドリア機能障害を示唆する知見が多く蓄積されている。その一つとして我々は遺伝性パーキンソン病(PARK22) の新規原因遺伝子産物coiled-coil-helix coiled-coil-helix domain containing 2 (CHCHD2) のミトコンドリア膜間腔局在を示した。パーキンソン病におけるCHCHD2遺伝子変異の病態生理を明らかにし、パーキンソン病の病態を反映した新規モデル細胞を確立するため、CRISPR/Cas9システムをもちいてヒト神経芽細胞腫培養細胞株のSH-SY5Y細胞のCHCHD2ノックアウト細胞を作製した。CHCHD2タンパクがミトコンドリア膜間腔に局在していたことから、ミトコンドリア機能を中心に種々の解析を行った。
2: おおむね順調に進展している
SH-SY5Y細胞のCHCHD2ノックアウト細胞は、通常のグルコース培地では野生株とほぼ同様の生育を示した。一方でガラクトース培地のおいては顕著な生育遅延を示したことから、ミトコンドリアの酸化的リン酸化機能が低下していることが考えられた。実際、ノックアウト細胞の酸素消費量は低下しており、各呼吸鎖複合体の活性を測定したところ、複合体IV (cytochrome c oxidase) の活性が顕著に低下していた。したがってCHCHD2の欠損はミトコンドリア酸化的リン酸化機能障害を引き起こすことが明らかなった。また、SH-SY5Y CHCHD2ノックアウト細胞は、CHCHD2のミトコンドリアにおける機能を理解し、パーキンソン病におけるCHCHD2遺伝子変異の病態生理を明らかにするのに、有用なモデルになると考えられた。
今後もSH-SY5Y細胞のCHCHD2ノックアウト細胞を用いて研究を進める。CHCHD2欠損により呼吸鎖複合体IVの活性が低下していることから、呼吸鎖複合体IVの会合過程をBlue Native-PAGEなどにより解析する。またCHCHD2ノックアウト細胞にCHCHD2-FLAGを強発現させ、免疫沈降法などによりCHCHD2の結合因子を探索するとともに、パーキンソン病患者由来のT61IおよびR145Q変異型CHCHD2を強発現させ、遺伝子変異の影響を解析する。
国際学会の参加費・旅費が他の予算から支給されたため。次年度はBlue Native PAGEや免疫沈降実験のための、泳動ゲルや抗体などの消耗物品の購入や学会発表の旅費などにあてる計画である。
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Scientific Reports
巻: 7 ページ: 46240
10.1038/srep46240
巻: 7 ページ: 7328
10.1038/s41598-017-06767-y