脊髄空洞症は脊髄内部に脳脊髄液が貯留した空洞を形成することで感覚障害や疼痛を呈する疾患で、キアリ奇形、脊髄損傷、脊髄感染症、腫瘍などと関連して生じることが多い。主に神経所見と脊髄MRIにて診断がなされる。脊髄空洞症の発症素因は解明されていないが、家族歴症例が報告されていること、キアリ奇形などの後頭蓋窩や脊椎の奇形を合併する症例も多いことから、脊髄空洞症の発症には何らかの遺伝素因が関与するものと考えられている。そこでわれわれは厚生労働科学研究費補助金神経変性疾患領域における調査研究班において家族性脊髄空洞症の疫学調査を実施し、本邦において家族例は極めてまれながら少数例存在することを報告した。これらのことは、病態には遺伝要因が関与することを推定させるものである。遺伝子解析対象症例を徐々に蓄積し、現在、家族発症例(キアリ奇形1型に脊髄空洞を伴う姉妹例とキアリ1型奇形のみの母)に加えて、発症者と家系内非発症者の5組(うち2組はトリオ)を対象に遺伝子解析研究が進捗中である。 また本症は外科治療が可能な疾患であるが、外科治療後の残存症状などが把握されていなかった。われわれは本症の臨床経過を解析し、術後残存症状として痛みを中心とした感覚障害が多く、とくに空洞が脊髄後角に進展する症例で顕著であること、キアリ奇形1型の術後臨床経過を後方視的に解析し、術後早期の空洞拡大は、不十分な硬膜外層の摘出が主な原因であること、術後長期経過後の空洞拡大は、硬膜を一部残存させる手術法に特有の合併症であること、第一椎体後弓の前方偏位が4mm以上あり、後頭蓋―C1-C2角度が160度以下の症例の場合には硬膜切除および硬膜形成をしたほうが術後増悪を予防できる可能性があることを明らかにした。これらの成果は脊髄空洞症の病態解明や予後改善に資するものと考える。
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