研究課題/領域番号 |
17K09775
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
野崎 洋明 新潟大学, 医歯学系, 助教 (20547567)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | HTRA1 / 脳小血管病 / 優性阻害効果 |
研究実績の概要 |
脳小血管病は認知症の重要な治療ターゲットである。しかし治療法はまだない。HTRA1遺伝子はセリンプロテアーゼをコードしており、HTRA1遺伝子変異によるプロテアーゼ活性の低下は脳小血管病を引き起こす。報告者は、これまでに、劣性遺伝形式で発症する稀な病態と考えられていたHTRA1関連脳小血管病が、優性阻害効果によって優性遺伝形式でも発症し、重度の脳小血管病患者の約5%を占めることを明らかにした。この知見は、治療可能な脳小血管病罹患者が多数潜在する可能性を示唆する。しかし、本症の罹患者数は不明である。本研究課題では、遺伝子多型データベースに登録されたHTRA1遺伝子多型の優性阻害効果に焦点を当て、病的な多型を選別し、そのアレル頻度からHTRA1関連脳小血管病の罹患者数を推計することを目的とした。 3年間の研究期間のうち初年度である本年度は、病原性が示唆されるHTRA1遺伝子多型の抽出を行った。方法として、まず、ヒトゲノムのバリエーションに関連する17のデータベース、約120,000アレル分のデータを統合したExAC Browserを用い、報告されているアミノ酸置換を伴うHTRA1遺伝子の一塩基多型118種をリストアップした。次に、①アレル頻度が1/100,000以上、②蛋白の病原性についてのin silico解析ソフトである、PolyPhen-2によるスコアが0.5以上(最小0、最大1.0)、③アミノ酸の置換部位がプロテアーゼドメインに位置する、の3条件を満たす10種の多型を選択した。さらに、10種の多型について発現ベクターを作成し、それぞれ精製蛋白を作成した後、FITCでラベルしたβカゼインを基質として酵素活性を測定した。その結果、10種類全ての多型の酵素活性が野生型に比して有意に低下していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題では、国内外の遺伝子多型データベースに登録されているアミノ酸置換を伴うHTRA1遺伝子一塩基多型を抽出し、in silico解析によって病原性の予測を行う。病原性が予測された多型から翻訳されるHTRA1蛋白を作成し、HTRA1蛋白の酵素活性の測定を行い、実際に酵素活性が低下する多型を選別する。さらに、応募者が確立した優性阻害効果の検証方法を用いて、これら多型の優性阻害効果を検討し、脳小血管病の遺伝形式を推定する。最終的に病的意義を持つと判断した多型のアレル頻度から、HTRA1関連脳小血管病の罹患者数を推計する。 3年間の研究期間のうち初年度である本年度は、①特定の疾患や遺伝子に特化していない成人のデータベースからアミノ酸置換を伴うHTRA1遺伝子一塩基多型をリストアップし、蛋白の病原性を予測するin silico解析ソフトにより病原性が有ると判定された多型を選択する、②選択した多型について、精製蛋白の作成と酵素活性の解析を行い、実際に酵素活性を認める多型を絞り込む、ことを計画していた。実際に、本年度中にヒトゲノム約120,000アレル分のデータを統合したExAC Browserと蛋白の病原性を予測するin silico解析ソフトであるPolyPhen-2を用いて10種の多型を選択し、さらに、精製蛋白の作成と酵素活性の解析により10種の多型全ての酵素活性が野生型に比して有意に低下していることを確認できた。初年度の研究は計画通り完遂した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では、ヒトゲノムのバリエーションに関連するデータベースからアミノ酸置換を伴うHTRA1遺伝子一塩基多型を抽出し、その中から実際に酵素活性が低下する多型を選別する。さらに、応募者が確立した優性阻害効果の検証方法を用いて、これら多型の優性阻害効果を検討し、病的意義を持つ多型のアレル頻度から、HTRA1関連脳小血管病の罹患者数を推計する。初年度はHTRA1遺伝子一塩基多型を抽出し、酵素活性が低下する多型を選別した。 今後の研究計画として、初年度に選別した多型について、優性阻害効果の検証を行う。具体的には、酵素活性が低下しているHTRA1多型について、野生型HTRA1の酵素活性に対する優性阻害効果の有無を検証する。優性阻害効果については、多型HTRA1と野生型HTRA1を混合した精製蛋白を作成し、FITCでラベルしたβカゼインを基質として混合し、経時的に蛍光を測定する。この実験系では、優性阻害効果を示す既報の変異型HTRA1と野生型HTRA1の混合蛋白を陽性対照とする(Nozaki et al. Neurology 2016)。 研究計画が予定通り進まなかった場合の対応として、基質の変更を検討する。酵素によっては、基質ごとに活性が異なることがある。そのため、βカゼインを用いた解析がうまく進まない場合は、よりHTRA1に特異性が高い基質であるH2やTGF-βに基質を変更して、酵素活性を解析する。また、luciferaseを利用したレポーターアッセイによりTGF-βシグナルに対する影響についても解析を行う。この解析方法は、すでに報告者が行ってきた手法であり、解析データの論文化も行っている(Hara et al. N Engl J Med. 2009, Shiga et al. Hum Mol Genet. 2011)。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究計画が順調に完遂できた為、68,560円の次年度使用が生じた。この費用は、次年度の実験消耗品の購入費用に充てる。
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