研究課題/領域番号 |
17K09777
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
小池 春樹 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (80378174)
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研究分担者 |
飯島 正博 名古屋大学, 医学系研究科, 寄附講座講師 (40437041)
川頭 祐一 名古屋大学, 医学部附属病院, 病院講師 (40569779)
勝野 雅央 名古屋大学, 医学系研究科, 教授 (50402566)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 家族性アミロイドポリニューロパチー / アミロイド / アミロイドーシス / トランスサイレチン / ニューロパチー |
研究実績の概要 |
我が国において最も頻度の高い家族性アミロイドポリニューロパチー(FAP)は30番目のバリンがメチオニンに変異(Val30Met)したトランスサイレチンがアミロイドの前駆体となるタイプであり、従来、長野県小川村と熊本県荒尾市の二大集積地と関連した若年発症例が報告されてきたが、我々の研究によって50歳以上で発症する高齢発症例が全国に多数存在することが明らかになった。日本の二大集積地における若年発症例は、表在感覚障害と自律神経障害が顕著であることを特徴とするのに対して、非集積地の高齢発症例は、深部感覚と表在感覚が同程度に障害され、自律神経障害は特に病初期には軽度である。同じ遺伝子変異を有するにもかかわらず異なる表現型を呈する機序については明らかになっていない。FAPの新規治療として近年我が国で承認された内服薬であるタファミジスは若年発症例の早期にのみ有効性が示唆されており、診断に難渋することの多い非集積地の高齢発症例に対する新規治療法の開発の重要性が高まっている。 本研究では集積地の若年発症例と非集積地の高齢発症例を、特にシュワン細胞と微小血管障害の様式の違いに着目して検討し、神経障害をきたす機序を明らかにし、治療への応用を検討する。具体的には、末梢神経系における神経線維の脱落様式、アミロイドの沈着量、沈着部位、形態、および神経内鞘の微小血管の形態を集積地の若年発症例と非集積地の高齢発症例に分けて定量的に比較検討した。末梢神経系のシュワン細胞のアミロイド浸潤に対する脆弱性は、集積地の若年発症例では高度であるのに対し、非集積地の高齢発症例は軽度であった。非集積地の高齢発症例では神経内鞘の微小血管の異常所見が目立ち、血液神経関門の破綻が末梢神経における障害機序に関与していることが推測された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
末梢神経系における神経線維の脱落様式、アミロイドの沈着量、沈着部位、形態、および神経内鞘の微小血管の形態を定量的に検討した。腓腹神経生検または剖検を依頼されたFAP全症例の末梢神経系における神経線維の脱落様式、アミロイドの沈着量、沈着部位、形態、および神経内鞘の微小血管の形態を集積地の若年発症例と非集積地の高齢発症例を光学および電子顕微鏡を用いて比較検討した。症例の大多数はVal30Met変異を有していたが、non-Val30Met変異を有する例とポルトガル由来のVal30Met変異例も含まれており、それらの症例も同様に解析した。集積地の若年発症例とポルトガル由来のVal30Met変異例では長く太いアミロイド線維を多く認めたのに対し、非集積地の高齢発症例とnon-Val30Met変異例では年齢に関係なく短く細いアミロイド線維を多く認めた。神経内鞘には電子密度の高い無構造な物質がみられ、その中にアミロイド形成の初期像と推測される点状の構造が散見された。特に集積地の若年発症例とポルトガル由来のVal30Met変異例では様々な長さのアミロイド線維がみられ、点状の構造を核にして線維が伸長する過程が推測された。アミロイドの中心に向かって引き延ばされる形で萎縮したシュワン細胞を集積地の若年発症例で多く認めた。無構造の物質からアミロイド線維が形成される過程が推測された。長い線維は伸長の過程で周囲の組織を牽引する傾向があり、シュワン細胞の変形と萎縮に関与している可能性が示唆された。一方、神経内鞘の微小血管の形態異常、特に血液神経関門の破綻を示唆する所見は非集積地の高齢発症例で多く認められた。神経内鞘の微小血管の形態異常を示唆する所見はギラン・バレー症候群や慢性炎症性脱髄性多発ニューロパチーなどの炎症性ニューロパチーと比較しても多く認められた。
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今後の研究の推進方策 |
若年発症例と高齢発症例の神経障害の差異を規定する病理学的基盤の検索として、長期予後の検討、生検および剖検標本を用いた末梢神経系の組織学的検討、神経障害・微小血管障害をきたす分子基盤の検討を今後も継続していく。症例のリクルートに関しては、名古屋大学大学院医学系研究科には、非集積地のFAP、特に高齢発症のFAP ATTR Val30Metに関して、多数の生検および剖検例の蓄積がある。また、疾患の認知度の高まりにつれて、今後も新規の症例が多数加わることが予想され、多数例での臨床病理学的なアプローチのみならず、治療反応性も含めた前向きの臨床研究も可能となる。免疫組織化学的検討や免疫電顕に必要な光学および電子顕微鏡をはじめとする機器は神経内科学教室および分析機器部門に設置されており、今後も本研究のために積極的に活用していく。これらの研究から得られた知見をもとに、FAPモデルマウスの解析と末梢神経障害を規定する遺伝子の確定をおこない、治療への展開を目指す。本研究の研究分担者および研究協力者は研究代表者と同一の施設に在籍し、定期的に連絡調整を行っている。研究分担者の飯島正博と川頭祐一は他の研究協力者とともに末梢神経疾患の生検/剖検検体を用いた病態解析とモデルマウスの解析を行っている。モデルマウスの解析手法は研究分担者である勝野雅央らによって確立されており、この手法を活用する。また、研究成果は国内および海外での学会で積極的に発表するとともに、名古屋大学神経内科ホームページ、機会があれば報道機関などを通して研究成果を社会・国民に発信していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた分析機器関連の経費を手続き上、支払いが困難なことが解かったため、他の経費で負担することとなり未使用額が生じた。次年度の研究補助者の人件費に使用する予定である。
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