研究課題
炎症性筋疾患は多発筋炎,皮膚筋炎,封入体筋炎,IMNMに大別されるが,いずれの病型にも該当しない症例も存在し,極めて不均一な疾患である.炎症性筋疾患の診療に神経内科だけでなく膠原病内科,皮膚科,呼吸器内科,小児科も関与し,それぞれの科で独自の疾患概念が存在している.したがって診療科を超えた一定のコンセンサスがない状態で,炎症性筋疾患の臨床が行われているのが現状である.研究代表者はこれまでRNA免疫沈降法やenzyme-linked immunosorbent assay (ELISA)を用いて,多くの自己抗体の測定系を樹立,維持してきた.その成果は論文成果だけでなく,全国の主治医の測定依頼を受け,実地医療へも貢献している.近年,あらたな自己抗体の登場や疾患概念の変遷から,自己抗体の意義についても再検討すべき時期にきている.本研究課題は炎症性筋疾患(筋炎)の1つである免疫介在性壊死性ミオパチー (immune-mediated necrotizing myopathy, IMNM) の患者検体(血清,genomic DNA,生検筋)を用いた臨床研究である.臨床像,human leukocyte antigen (HLA),自己抗体,筋病理,病態機序解明など多面的な検討を行い,自己抗体の意義につき多面的に解析を行う.最終的には自己抗体測定を実地医療で行うための保険収載を目標として測定キットの開発を行う.
2: おおむね順調に進展している
炎症性筋疾患の患者血清中には自己の細胞核や細胞質,細胞膜蛋白と反応する多種類の自己抗体が検出される.標的となる抗原は遺伝子の複製,転写,RNAのプロセッシング,蛋白への翻訳など細胞の重要な生命現象に関与する酵素あるいは調節因子である.IMNMに関連する代表的な自己抗体はシグナル認識粒子 (signal recognition particle, SRP) に対する自己抗体と3-hydroxy-3-methylglutary-coenzyme A reductase (HMGCR)に対する自己抗体である.本研究の対象となるIMNM患者が登録された統合的診断研究データベースである.2010年から2016年までの期間に登録された症例は800例を超えており,自己抗体はRNA免疫沈降法とELISAにより測定した.自己抗体のあらたな測定法としてcell-based assayの評価にフローサイトメーターを用いた cell-based assay法を確立した.抗横紋筋抗体によるcytometric cell-based assayが完成し,今後は抗SRP抗体や抗HMGCR抗体に応用していく予定である.また免疫チェックポイント阻害薬の投与により発症する筋炎はIMNMに類似の筋病理所見を呈することが明らかになり,その臨床特徴について検討を行った.
IMNMは自己抗体が病態に深く関与している可能性を考え,免疫遺伝学的背景との関連に注目した.すでにHLA-DRB1遺伝子のDNAタイピングをPCR-SSOP法により行い,DRB1*08:03 (odds比2.3, p=0.000021) とDRB1*11:01 (odds比2.0, p=0.04)が日本人健常者群に比しIMNM患者群で有意に多いことが明らかにした.さらに次世代シークエンサーを用いて,多型性に富むHLA遺伝子6座位 (HLA-A, HLA-B, HLA-C, HLA-DR, HLA-DQ, HLA-DP)を中心に大規模な多型解析を計画している.HLA遺伝子の意義は現在のところ特定の病型との関連にとどまっている.今後,病態機序の解明だけでなく HLAの結果を基にした最適な免疫療法の選択が行われる可能性が期待できる.
研究試薬の購入が計画していたよりも少なくなり,今年度に使用する予定である.
すべて 2019 2018 2017
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち招待講演 2件) 産業財産権 (1件)
J Autoimmun
巻: in press ページ: N/A
10.1016/j.jaut.2019.03.005
Sci Rep
巻: 9 ページ: 5284
10.1038/s41598-019-41730-z