研究課題
当該研究は以下の様に進んでいる。1.痛覚線維選択的電気刺激による脳誘発電位:小径有髄線維・無髄線維刺激による大脳誘発電位は、平成30年度までに前年度分を加えて正常対照30名神経障害性疼痛患者30名において記録を行い、疼痛患者における脳電位変化の傾向を把握した。小径有髄線維および無髄線維刺激による誘発電位の潜時、振幅、及び振幅比をそれぞれ同一被験者に行うことによって、各パラメータの相関関係を解析した。その結果、神経障害性疼痛患者にいて小径有髄線維刺激の脳電位の振幅が低下するものの、無髄線維刺激の電位振幅は相対的に増大していることが示された。これらの結果は、神経障害性疼痛が小径有髄線維から無髄線維への抑制が低下することによって生じているという作業仮説を支持するものであった。2.脳機能画像による疼痛の客観的評価:平成30年度半ばまでに神経障害性疼痛患者30名において脳血流SPECTを用いて脳内の活性化部位を評価し、すでにデータベース化されている正常対照のデータと統計的比較解析を行うことにより、慢性疼痛患者において大脳辺縁系の中でも帯状回前部において血流が増加しており、患者の自覚的疼痛評価スケールと血流増加の程度が相関することを見出した。また、ノルアドレナリン・セロトニン取り込み阻害薬による治療後に、この血流変化が正常化の方向に向かうことを示した。これらの結果を国際医学誌(Journal of Neurology, Neurosurgery, and Psychiatry)に公表した。
2: おおむね順調に進展している
1.痛覚線維選択的電気刺激による脳誘発電位:小径有髄線維および無髄線維刺激による脳誘発電位を同一症例において記録して比較検討する評価系を確立した。目標とする症例数である正常対照30名、神経障害性疼痛患者30名を達成し、解析を終了した。神経障害性疼痛が小径有髄線維から無髄線維への脱抑制によち生じるという作業仮説を支持する結果が得られ、これを国際医学誌に公表した。2.脳機能画像による疼痛の客観的評価:脳血流SPECTにより慢性疼痛と関連する脳内活性化部位の同定とその定量を、30名の神経障害性疼痛患者において行った。疼痛患者では大脳辺縁系の中でも帯状回前部の血流が増加しており、疼痛と関連して活性化していることを見出した。この結果を平成30年に国際医学誌に公表した。
神経障害性疼痛患者における疼痛の客観的評価法として、(1)痛覚刺激脳誘発電位における小径有髄線維系による無髄線維系の抑制の低下と定量的評価、(2)脳血流SPECTによる全部帯状回の血流測定、の二つの方法において評価系の有用性を示した。今後、同一患者においてこれらの手法を用いて疼痛の多面的・客観的評価を行うことにより、新たな疼痛評価法を確立し、ひいては神経障害性疼痛治療の定量的効果判定を行うことにより、個々の患者の病態に応じた至適治療法の確立を目指す。
すべて 2018
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J Neurol Neurosurg Psychiatry
巻: 89 ページ: 1082-1087
10.1136/jnnp-2017-316601