研究課題
微小管阻害薬のタキサン系抗がん剤は、固形癌治療において高い有効性を持つ一方、副作用である末梢神経障害を高率に生じる。特に感覚神経障害が強く出現し、長期生存者のQOLを障害している。本研究は乳がん患者におけるタキサン系抗がん剤のパクリタキセルによる末梢神経障害の作用機序を、軸索機能検査を用いて解明すること、および発症前・早期評価の可能性を探索を目的として計画された。当初パクリタキセル投与予定の乳がん患者に対して、治療前後で縦断的に各種評価を行うことを計画していたが、治療前に評価可能な症例を集めるのが困難であったため、本年度は横断的な研究を中心に行った。化学療法誘発性末梢神経障害患者27名を対象に各種評価を行った。しびれを強く認める有痛性末梢神経障害の患者群(n=15)では、非有痛性末梢神経障害群(n=12) と比較し、年齢、糖尿病の既往、正中・腓腹神経のSNAP振幅比で差を認めなかった。有意差は認めないものの、女性が多く、運動神経CMAP振幅低下を認める症例が有痛群で多い傾向を認めた。これらの結果から、既報と同様に、神経障害性疼痛が器質的な神経障害以外に複数の要素が関わっている可能性が示された。軸索興奮性の評価では、末梢神経障害群は正常群と比較して脱分極傾向を認めたが、有痛群と非有痛群での有意な差は認めなかった。経時的な変化では、治療後疼痛が改善した例と不能な群で有意差を示すパラメーターは認めなかった。今後さらなる症例数の蓄積が必要である。
3: やや遅れている
当初針電極を使用した腓腹神経の軸索機能検査を行う予定であったが、検査に使用する針電極の供給中止により、今までの健常 群のデータが使用できなくなるという問題が生じた。また診断から外来での化学療法開始までの期間が短く、治療前評価が難しいという問題が生じた。
臨床および神経伝導検査において上肢にも症状が出現する症例が多かったこと、また上肢にも何らかの変化を来しうるという薬剤性の病態を考え、正中神経の感覚神経での評価に切り替え、検討を行っている。治療前評価が困難なことに関しては、引き続きリクルートを行うとともに、横断的な検討も行うこととした。
化学療法治療室での検査実施に伴い、軸索機能検査の機器を購入予定としていた。しかし検査機器の変更および機器の点検、軸索機能検査のライセンス料支払いなどに研究費を使用したため、機器購入を見合わせた。2019年は計画通り機器を購入する予定である。
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Lancet neuro
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J Neurol Neurosurg Psychiatry
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