研究課題
微小管阻害薬のタキサン系抗がん剤は、固形癌治療において高い有効性を持つ一方、副作用である末梢神経障害が高率に生じ、長期生存者のQOLを障害している。本研究は、タキサン系抗がん剤であるパクリタキセルによる末梢神経障害の作用機序を、①軸索機能検査を用いて解明すること、②発症前・早期評価の可能性を探索することを目的とした。初年度は乳がん患者の加療前後での評価を計画したが、乳がん診断から加療までの期間が短く、無症状である治療前の時点で詳細な神経学的評価を行うことが困難で、症例リクルートが難航した。また腓腹神経の軸索機能検査に使用する針電極が供給中止となり、正常値のデータが使用できなくなったため、正中神経の軸索機能検査のみ行うこととした。昨年と本年にかけては、おもに化学療法誘発性ニューロパチー患者の横断的な評価を行った。化学療法誘発性ニューロパチー患者を有痛群(NRS:Numerical Rating Scale 3以上、n=16)と非有痛群(n=14) とに分け、各種検査を比較した。糖尿病の既往、正中・腓腹神経のSNAP振幅比で差を認めなかったが、有痛群に女性が多く、運動神経CMAP振幅低下が多い傾向であった(有意差なし)。軸索興奮性検査では正常群と比較して過分極傾向であった(有意差なし)。また治療を行った有痛群の患者で、かつ治療前後で検査を行った群(n=8)での解析では、NRSスコアの低下は認めたが、神経伝導検査および軸索興奮性検査で、有意な変化はなかった。これらの結果から、有痛性の化学療法性ニューロパチー患者においては、軸索興奮性が過分極傾向であるものの、従来の疼痛治療薬投与では変化が乏しい可能性が示された。今後も症例の蓄積を行なうとともに、より汎用性の高い簡便な評価方法の検索など、実臨床での利用を視野にいれた研究を行う必要がある。
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