研究課題/領域番号 |
17K09797
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(静岡・てんかん神経医療センター臨床研究部) |
研究代表者 |
寺田 達弘 独立行政法人国立病院機構(静岡・てんかん神経医療センター臨床研究部), その他部局等, その他 (80550178)
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研究分担者 |
武内 智康 浜松医科大学, 光尖端医学教育研究センター, 特任助教 (20754188)
尾内 康臣 浜松医科大学, 光尖端医学教育研究センター, 教授 (40436978)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | アルツハイマー病 / ミトコンドリア / 糖代謝 / PET / 認知症 |
研究実績の概要 |
アルツハイマー病(AD)は認知症の中で最も多い疾患であり、ADの病態解明と治療法の確立は重要な課題である。ADの主要病理は、アミロイドの蓄積によって引き起こされたタウの沈着とそれにともなう神経細胞死であるが、神経細胞死には、ミトコンドリア機能障害が関わっているとされている。そこで、新たに開発されたミトコンドリア電子伝達系酵素複合体1(MC-1)の活性を評価できる薬剤[18F]BCPPを用いてミトコンドリア機能障害の分布・程度をポジトロン断層法(PET)で撮像し、認知機能障害、アミロイド沈着、糖代謝、タウ病変、脳萎縮、ADの危険因子であるアポリポタンパクE多型との関連を検討することで、網羅的にミトコンドリア機能障害のAD病理と病態への関わりを明らかにすることを目指す。 AD症例の[18F]BCPP SUVRの低下は、側頭葉、前頭葉、頭頂葉、特に海馬傍回で明らかであった。この分布は、[18F]FDGにて評価される、後部帯状回から楔前部の糖代謝の低下といった特徴と明らかに異なるものであった。さらに[18F]BCPPの集積低下は早期AD群でも明らかであったが、早期ADでは、[18F]FDGの低下はごく限定された脳部位のみに認められた。以上より、[18F]BCPPによるミトコンドリア機能障害の評価は、ADの早期診断に臨床応用できる可能性が示唆された。 AD症例の全般的認知機能を評価するMini Mental State Examination(MMSE)の低下は、内側・外側側頭葉 の[18F]BCPPの集積低下と関連を認めた。一方、MMSEの低下は後部帯状回から楔前部の[18F]FDGの集積低下と関連を認めた。[18F]BCPP低下の分布様式は、ADにおける細胞障害と関連を持つとされているタウの分布と酷似しており、ミトコンドリア機能障害はタウによる細胞障害を反映していると考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルツハイマー病(AD)および健常者の臨床評価およびPET撮像は完了している。 また、新規トレーサーである[18F]BCPP PET画像において、standarized uptake value ratio(SUVR)法を用いた結合能binding potentialの推定のための条件設定を行った。これにより、Statistical Parametric Mapping(SPM)8を用いた統計画像解析と関心領域(region of interest)法によるSUVR値の比較検討、関連検討が可能となった。 また、AD症例群と健常群との[18F]BCPPおよび[18F]FDG PETの群間比較を行い、AD症例におけるミトコンドリア機能障害の分布を可視化することに成功し、その低下分布は糖代謝低下の分布と行ることを示した。さらに、ミトコンドリア機能障害と認知機能に相関があることも確認した。以上から、[18F]BCPP PETによるミトコンドリア機能評価は、ADの細胞障害の評価、および早期診断に有用であることを提示することができた。 これまでの研究成果に関して、第59回日本神経学会学術大会、第37回日本認知症学会学術集会、第58回日本核医学学会学術総会にて発表を行った。今後の研究成果に関して、第60回日本神経学会学術大会にて発表のため、抄録提出を行い、さらに、研究成果を英文誌に投稿する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
対象者のPET撮像と臨床評価は終了している。前年度に引き続き、アルツハイマー病(AD)症例のアポリポタンパクのタイピング、および髄液アミロイドβの測定を完了させる。これらのバイオマーカーと相関をしめす[18F]BCPPおよび[18F]FDG PETの関心領域を検討する。さらに、ミトコンドリア機能障害と糖代謝、およびアミロイド沈着との関連を検討するため、[18F]BCPP、[18F]FDG [11C]PiB PETのSUVR値の直接相関を統計的に検討する。研究成果は、神経学会、認知症学会(第60回日本神経学会学術大会)(第38回日本認知症学会学術集会)での発表を経て、英文誌に投稿するとともに国際学会にて発表し、広く研究成果を発信する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
申請時の計画にのっとって、必要に応じて研究費を執行したが、為替レートの変動や、当初の見込み額と若干異なり、軽度ながら残額が生じた。 申請時の研究計画からは変更はない。前年度の研究費を含めて予定通り、研究を進めていく。残額は2019年度に施行予定のバイオマーカー測定キットの購入、学会の参加費、論文の投稿費用として計上する予定である。
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