側頭葉てんかん患者においてaccelerated long-term forgetting (ALF)が近年注目されている。ALFは一旦記憶したものを健常者よりも加速的に忘却する現象のことである。記憶の固定化障害と考えられているが、てんかん性放電、海馬神経細胞脱落、抗てんかん薬など様々な要因が関与している可能性があり、その病態は明らかになっていない。本研究では、まず、先行研究を参考にして、ALFを定量的に評価する試験を独自に開発し、健常者群に対して検証を行った。また、頭部MRIで海馬の微細構造を同定するための撮像方法、解析手法を検討し、撮像プロトコールを作成した。 次に、健常者および外来通院中のてんかん患者に対して、臨床研究を実施し、神経心理検査、頭部MRI、脳波検査を行った。頭部MRI画像から、海馬のsubfieldの容積を自動解析ソフトウェアによって算出した。また、脳波検査からはノンレム睡眠中のspike frequencyを算出した。ALFの試験結果から10分後から1週間後にかけての記憶保持率を求め、これをALFの程度の指標として使用し、年齢、知能指数、薬剤、海馬subfieldの容積、spike frequencyなどとの相関関係を求めた。更に、重回帰分析を用いて、交絡因子を補正した上で海馬subfieldの容積、spike frequencyとの関連性を求めた。言語性の記憶において、記憶保持率は左海馬CA1領域の容積と強い相関があることが明らかとなった。また、ノンレム睡眠中のspike frequencyの高いグループにおいては、より記憶保持率が低下することがわかった。本研究により、海馬の構造異常とノンレム睡眠中のspikeがALFと関連することが示唆された。
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