研究課題
肥満などのインスリン抵抗性状態においては代償的に膵β細胞数が増加しインスリン分泌を亢進することによって血糖値の上昇を抑制する機構が働くが、ヒトを含む生物においてこれらの反応は血糖値が上昇する以前から起こる。このことからインスリン抵抗性状態では血糖値以外に膵β細胞増殖、インスリン分泌亢進を引き起こす機構があることが想定される。しかしそれがどのようなメカニズムで起こるのかは不明であった。研究代表者は、この代償反応が起こる引き金として、神経シグナルを介した臓器間ネットワークによる膵β細胞制御機構が重要な役割を担っていることを報告した(Science 2008)。この臓器間神経ネットワークにおいては、肝臓がextracellular-signal regulated kinase (ERK)経路の活性化を介して肥満の際の全身のインスリン需要の増加を感知することが重要であり、さらに肝臓で感知されたシグナルが内臓神経求心路→中枢神経→迷走神経遠心路→膵β細胞という神経ネットワークを介して膵β細胞の代償性反応を起こすことを世界で初めて示した(Science 2008)。さらにこの神経ネットワークにおいて迷走神経シグナルが膵β細胞FoxM1経路を介して増殖を促進する分子メカニズムを解明した(Nature Communications 2017)。この神経ネットワークの活性化は明らかな体重増加を認める前の肥満のかなり初期から起こっており、インスリン抵抗性の悪化に応じて膵β細胞が増殖しその後の血糖値の上昇を予防する「予測的糖代謝恒常性維持機構」と考えられる。また、この機構の破綻が糖代謝異常の発症に関与している可能性も考えられる。
1: 当初の計画以上に進展している
アセチルコリンやVIP、PACAPなどの迷走神経由来神経ペプチドを単離膵島に同時に作用させることで膵β細胞増殖が亢進することを見出した。この際に膵β細胞内で起こる遺伝子発現変化を網羅的に解析した結果、細胞増殖において重要な役割を担うFoxM1経路が活性化していることを発見した。さらにこれらの変化は、遺伝子導入によって肝臓ー膵β細胞間神経ネットワークを活性化した場合、あるいは神経ネットワークが活性化している肥満モデルマウスの膵島においても認められることを明らかにした。
アセチルコリンやVIP、PACAPなどの迷走神経由来神経ペプチドをマウス、ラット単離膵島に同時に作用させることで膵β細胞増殖が亢進することから、今後ヒト膵島を用いて同様の効果が得られるか検討する。
すべて 2018 2017 その他
すべて 雑誌論文 (7件) (うち国際共著 1件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 2件) 備考 (1件)
Scientific Reports
巻: 8 ページ: 1499
10.1038/s41598-018-19765-5
Diabetes Research and Clinical Practice
巻: 139 ページ: 43-51
10.1016/j.diabres.2018.02.003
最新医学
巻: 73 ページ: 30-36
Nature Communications
巻: 8 ページ: 1930
10.1038/s41467-017-01869-7
肝胆膵
巻: 75 ページ: 905-910
Diabetes Frontier
巻: 28 ページ: 427-431
月刊糖尿病
巻: 9 ページ: 74-79
http://www.diabetes.med.tohoku.ac.jp/