研究課題/領域番号 |
17K09819
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 正稔 東京大学, 医学部附属病院, 特任助教 (30396725)
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研究分担者 |
植木 浩二郎 東京大学, 医学部附属病院, 客員研究員 (00396714)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 肥満 / 脂肪細胞分化 / RNA修飾 |
研究実績の概要 |
DNAのメチル化と異なり、RNAメチル化の意義は殆ど知られていない。最近、RNAのN6-アデノシンのメチル化(m6A)が、Wilms' tumor 1-associating protein(WTAP)という核蛋白と、メチル基転移酵素Methyltransferase like(METTL)3およびMETTL14との複合体(WMM複合体)によってなされることが明らかにされたが、その生理的意義は殆ど不明である。一方、我々はこれまでに、WTAPを減少させると、肪細胞分化を抑制し、肥満に抵抗性となることを明らかにしていた。そこで本研究は、m6A-RNAメチル化を介して、WMM複合体が脂肪細胞分化を制御するメカニズムを明らかにすることを目的とした。 H29年度我々は、3T3-L1前駆脂肪細胞において、METTL3/14のノックダウン(KD)によっても脂肪細胞分化が抑制され、WTAPの作用がMETTL3/14を介す可能性を見出した。 さらに、WTAP, METTL3/14をKDし、脂肪細胞に分化誘導し、免疫蛍光染色およびWestern blottingにより解析したところ、METTL3/14の一方のKDは他方の蛋白量を部分的に減少させたが、WTAPの蛋白量は減少させなかった。一方、WTAPのKDはMETTL3/14の核における蛋白量を著明に減少させた。このことから、METTL3/14はWTAP依存性に核内で増加すると考えられたため、WTAPはMETTL3/14をRNAにリクルートする役割を担うのではないかという仮説をたてた。そこで、RNaseで処理したところ、WTAPの核における増加がキャンセルされた。すなわち、脂肪細胞分化におけるWTAP核内の増加はRNA依存性であることが示唆され、この結果はWTAPがMETTL3/14をRNAにリクルートするという役割を支持するものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
H29年度、我々は、脂肪細胞分化におけるWMM複合体の各構成分子の機能・役割として、ある構成分子のノックダウンは他の分子の、蛋白量、核への集積等にどのような影響を与えるかを明らかにすることができた。 WTAP自身はメチル転移酵素活性を有しておらず、複合体における役割は今まで明らかにされていなかったが、脂肪細胞分化において、WTAPはMETTL3/14をRNA上にリクルートする役割を担っている可能性を示唆するデータを、RNase処理による実験で得ることができた。 総じて、H29年度は、脂肪細胞分化におけるWMM複合体の各構成分子の機能・役割の解明が概ね順調に進展した。
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今後の研究の推進方策 |
1. 脂肪細胞分化におけるm6A-RNAメチル化の意義の検討 脂肪細胞の一般的な分化過程において、m6A修飾がどのように変化し、それが分化・成熟の制御にどのような意義をもつのか、明らかにする必要がある。また我々は、WTAP、METTL3/14のノックダウンが、Cyclin A2の発現低下を伴って、脂肪細胞分化を抑制することを見出しているが、これが実際にm6A量を変化させているかどうか未検討である。これらを、totalのm6A量の定量や、m6A-RNAメチル化反応の化学的阻害剤を用いて検討する。 2. 脂肪細胞分化におけるWMM複合体の標的mRNAの網羅的探索・同定 我々は、WTAP、METTL3/14のKDが、Cyclin A2の発現低下とMCEの停滞を介して、脂肪細胞分化を抑制することを我々は見出しているが、実際に、WMM複合体がCyclin A2を直接の標的としているかどうか、即ちCyclin A2のmRNAのm6A量を変化させているかどうかは未検討である。また、Cyclin A2以外に、脂肪細胞分化・成熟に関わる様々な遺伝子(例えば脂質合成関連遺伝子など)のmRNA修飾を、WMM複合体が標的としているかどうか、全貌は不明である。これらについて、今後網羅的な探索を行う予定である。具体的には、RNA結合蛋白の免疫沈降・シークエンス、m6A-Seq(抗m6A抗体を用いた免疫沈降およびRNAシークエンス)等の手法を用いて、濃縮されるmRNAを、脂肪細胞の分化過程における変化や、各蛋白のノックダウンにおいて比較検討し、Cyclin A2 mRNAが標的であるか、またその他の脂肪細胞の分化成熟に関わる標的mRNAの網羅的同定を行いたいと考えている。
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