肝臓から分泌されるセレノプロテインP(SeP)の過剰分泌は、肝臓や骨格筋にインスリン抵抗性を惹起するばかりでなく、運動により骨格筋で産生される活性酸素種を過剰に消去してしまうことにより運動抵抗性も惹起する。そのため、SePを標的とした阻害剤は従来の概念に依存しない新規な2型糖尿病治療の開発に結びつく可能性がある。本研究では、SePとその受容体との結合を特異的に阻害する薬剤の探索に向け、分子間相互作用解析装置(Biacore)でSePと受容体との相互作用を解析した。 昨年度までにシステイン置換体SeP(cSeP)と精巣や脳においてSeP受容体として機能することが知られているApoER2(LRP8)との相互作用を解析したところ、cSePはApoER2に結合すること、また、その結合はEDTA存在下においてもApoER2から解離しないほど強固であることを明らかにすることが出来た。さらに、cSePはリガンド結合ドメインに変異を導入したApoER2に対しても野生型ApoER2に対するものと同様な結合を示した。すなわち、cSePはApoER2のリガンド結合ドメイン以外のドメインに結合することが示唆された。しかし、このような特異的な相互作用はシステイン置換に伴う効果であることも考えられる。そこで、本年度はヒト血漿から精製した天然型SePとApoER2との相互作用解析を行った。その結果、天然型SePにおいても、cSepと同様、ApoER2とは極めて強く相互作用することが明らかとなった。 これらの結果は、SePはApoER2などのLDL受容体ファミリーに属する受容体とは極めて特異的な相互作用様式で強固に結合し、そのまま細胞内に取り込まれることを示唆している。SePを標的とした新たな2型糖尿病治療薬の開発に結びつけるためには、明らかとなった相互作用様式をより詳細に解析することが必要である。
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