研究課題
野生型マウスに、通常食(NC)(炭水化物含有量58%、蛋白質含有量29%、脂質含有量13%)、高スターチ食(ST)(炭水化物含有量74%、蛋白質含有量13%、脂質含有量13%)、脂肪食(mHFD)(炭水化物含有量58%、蛋白質含有量13%、脂質含有量29%)を15週間与えると、NC群と比較してST群、mHFD群では体重増加が見られ、食事負荷15週後においては、ST群ではNC群と比較して32.7%、mHFD群では14.0%の体重増加であった。摂食量はNC群と比較してST群、mHFD群で増加していたが、基礎代謝はST群ではNC群と比較して低下が見られた。ST群による体重増加は、摂食量の増加と基礎代謝の低下によるものだと考えられた。食事負荷15週後の随時血糖値はNC、ST群と比較してmHFD群で増加が見られ、血清インスリン値はNC群と比較してST、mHFD群で高い値であった。血清GIP値は3群間でmHFD群で最も高く、NC群と比較してST群で高い値であった。食事負荷16週後に経口糖負荷試験(OGTT)を施行した。糖負荷後15分後の血清GIP値はST群、mHFD群においてNC群と比較して高く、インスリン値はmHFD群において3群間に中で最も高く、糖負荷15、30分後の血糖値は低い値を示した。一方、ST群においてはNC群と比較して糖負荷後15分後の血清インスリン値は高い値であったが耐糖能はST群とNC群ではほとんど変わりはなかった。さらに食事負荷17週後のインスリン負荷試験においてmHFD群ではST群やNC群と比較して軽度のインスリン感受性の低下が見られた。mHFD群においては、ST群と比較して体重は少なかったが、インスリン感受性の低下が見られることから、脂肪食は炭水化物食と比較して体重が少し増加する際にもインスリン感受性の低下を来しやすいと考えられた。
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究において高ショ糖食負荷マウスでは体重増加を来さず、高スターチ食では体重増加を来すこと、すなわち糖質の違いにより体重増加に与える影響が異なることを機序を含めて明らかにし論文化できた。さらに炭水化物と脂質という栄養素の違いによる2種類の体重増加モデルの作成に成功した。蛋白質の組成を一致させて検討を行った所炭水化物食(スターチ食)の方が脂肪食よりも体重増加を来しやすいことが明らかとなった。その一方で脂肪食は高スターチ食と比較して体重が少し増加する際にもインスリン感受性の低下を来しやすいことも明らかとなった。脂肪蓄積が体重増加に重要であり、脂肪蓄積を促進するホルモンとしてはインスリンとGIPという2種類のホルモンが知られている。今回高スターチ食も脂肪食も高インスリン血症と高GIP血症が見られた。随時血清のGIP値が脂肪食において高スターチ食と比較して増加が見られたことから、過去の既報通り脂肪食の方が炭水化物食と比較してGIP分泌促進作用が大きいことも分かった。このように本年度の研究において、高スターチ食、脂肪食でのin vivoにおける体重増加、GIP分泌、インスリン分泌の増加とその相違に関して明らかにすることができた。
過去の既報において45-50%の高脂肪食においてGIP分泌亢進が起こり、増加したGIP分泌がインスリン分泌増加を介して体重増加ならびに耐糖能改善効果を示すことがGIP作用にないGIP受容体欠損マウスの検討で明らかとなっている。今回脂質含有量29%と過去の既報と比較して軽度の脂肪食を負荷したマウスにおいても体重増加作用ならびにインスリン分泌増強作用が見られることが明らかとなった。今後は、高スターチ食ならびに脂肪食において増加したGIP分泌が、インスリン分泌に与える影響ならびに体重増加作用に与える影響に関してGIP受容体欠損マウスを用いて検討する。さらに、高スターチ食、脂肪食負荷時のインスリン分泌増加の機序に関しては個々の膵島機能の亢進と膵β細胞量の増加も原因であると考えられるため、単離膵島によるインスリン分泌実験ならびに膵臓の形態解析など膵島に関する詳細な検討を行う予定である。またスターチ食と脂肪食においてGIP分泌に差が見られることも本年度の研究で明らかとなった。脂肪食におけるGIP分泌増加に関してはGIP合成の亢進が原因であることがGIP-GFPマウスを用いた単離GIP分泌K細胞の検討でこれまで明らかとなっている。次年度は高スターチ食によるGIP分泌の亢進の機序に関しても単離K細胞を用いて検討を行う。
高炭水化物食、脂肪食ともに野生型マウスで高インスリン血症を伴う肥満モデルを確立できたため購入予定であったマウス、ホルモン測定キット、血糖測定関連の物品が想定よりも安価となったため未使用額が生じた。栄養素の違いが膵島や腸管内分泌K細胞にあたえる影響に関して膵島のRNAシークエンス解析のための費用に使用予定である。
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J Nutr Biochem
巻: 49: ページ: 71-79
10.1016/j.jnutbio.2017.07.010