研究課題
本年度は、若齢(8週齢)、高齢(52週齢)の野生型マウスC57BL/6Jに対して、膵β細胞の強力な増殖刺激である膵部分切除を実施し、若齢マウスでは膵β細胞が著明に増殖する一方、高齢マウスでは増殖する膵β細胞が著しく少ないことを確認した。さらに、若齢、高齢の膵部分切除マウスから膵島を単離し、網羅的遺伝子発現解析のためにRNA-Seqを、網羅的オープンクロマチン解析のためにATAC-Seqを実施した。予備的ではあるが、RNA-Seqの結果から、若齢では膵部分切除術後2日に膵島細胞内で発現する遺伝子群が大きく変化し、術後7日、術後14日と時間を経るごとに術前と同じ遺伝子発現状態に戻ることを確認している。興味深いことに、切除術後2日では細胞増殖や細胞分裂に関連する遺伝子群が誘導され、糖代謝やミトコンドリアにおける酸化的リン酸化に必要な遺伝子群が抑制されていた。一方、高齢では膵部分切除術後2日、7日、14日と時間経過を追うが、上述の遺伝子発現変化は認められなかった。さらに、現在解析中のATAC-Seqの結果からも、若齢では膵部分切除後2日にオープンクロマチン状態が最も変化して、術後7日、術後14日で術前と同じ状況に戻ることを確認している。また、高齢では、このようなオープンクロマチン状態の変化を見出さないことも確認している。また、本年度は生体内における膵β細胞増殖をリアルタイムに可視化する目的で、Cre/loxP系を用いて膵β特異的に細胞周期プローブを発現する遺伝子改変マウス(βFucci2aRマウス)を作成した。予備的ではあるが、若齢βFucci2aRマウス由来の単離膵島ではグルコキナーゼ活性化薬による増殖刺激に応答して膵β細胞の一部が増殖することを確認している。
2: おおむね順調に進展している
当初予定している研究計画の遂行に向けて、必要なアッセイ系の樹立や実験動物の作出が順調にすすんでいる。
膵島細胞は、膵β細胞が約8割を占め、残り2割をα細胞やδ細胞、PP細胞などの細胞集団により構成される。また、一様に見える膵β細胞の中でも、グルコースに応答して効率的にインスリンを分泌するものもあれば、インスリン分泌能は低いもののインスリン需要の増大に伴い膵β細胞を増やすべく自己増殖可能なものもいる。一個体から得られる膵島細胞の数は限られているため、これらの細胞を分けて、遺伝子発現の状態やオープンクロマチンの状態を解析することは困難であったが、近年、シングルセルレベルでのRNA-SeqやATAC-Seqが可能になっている。そこで、平成30年度は、増殖刺激を加えて若齢マウス、高齢マウス由来の膵島細胞に対してシングルセルレベルでの解析を行い、平成29年度に行ったRNA-Seq、ATAC-Seqと組み合わせて膵β細胞増殖の鍵を握る分子の同定に役立てる。さらに、膵β細胞増殖をリアルタイムに可視化可能なβFucci2aRを用いて、増殖能を有する膵β細胞を単離して、RNA-Seq、ATAC-Seqを行うことでも、解析精度をなお一層改良することに努める。
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すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (7件) (うち査読あり 7件、 オープンアクセス 7件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 3件、 招待講演 6件)
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