研究課題
肥満症は、糖尿病、脂質異常症、高血圧症などの心血管病リスクファクターを合併する解決すべき健康障害である。最近の研究の進展により、皮下脂肪、内臓脂肪の区別だけではなく、脂肪組織以外の臓器(肝臓、骨格筋、膵臓など)への脂質蓄積、すなわち「異所性脂肪」蓄積が注目されている。現在のところ、糖・脂質代謝調節における異所性脂肪蓄積を検討するための良いモデル動物が存在するとは言えない。高脂肪食による食餌性肥満動物が用いられることがあるが、肝臓や骨格筋に異所性脂肪蓄積をきたすのに時間がかかる点や、餌として用いる高脂肪食(45%~60%)が実際の肥満臨床とはかけ離れている点などの問題がある。ヒト肥満症の病態に則した異所性脂肪蓄積モデル動物が開発され、異所性脂肪蓄積の病態生理的意義が明らかにされることが望まれる。申請者らは、脂肪萎縮症という希少疾患の研究および診療を通じて、異所性脂肪蓄積の重要性を早くから指摘してきた。さらに脂肪萎縮症患者を対象としたレプチン補充治療により、異所性脂肪蓄積の減少が、インスリン感受性の改善、インスリン分泌能の改善に寄与する可能性を見出した。本研究では、異所性脂肪蓄積の新規モデル動物を確立し、それらを用いることで、これまで解析困難であった異所性脂肪蓄積の糖・脂質代謝調節における病態生理的意義を明らかにすることを目指す。平成29年度は、食餌性肥満ラットをゴールデンスタンダードとして、全身性脂肪萎縮症モデルラット(セイピン欠損ラット)、肥満症ラット(レプチン欠損ラット)における異所性脂肪蓄積および糖・脂質代謝パラメータの関連などを検討し、異所性脂肪蓄積モデル動物としての妥当性を評価した。
2: おおむね順調に進展している
異所性脂肪蓄積モデルラットとして、セイピン欠損ラットとレプチン欠損ラットを検討した。セイピンは先天性全身性脂肪萎縮症の原因遺伝子として知られており、セイピン欠損ラットは生下時より全身の著しい脂肪組織減少が認められる。またレプチンは、遺伝性肥満の原因遺伝子として知られており、レプチン欠損ラットは過食と伴に著しい肥満が認められる。セイピン欠損ラット、レプチン欠損ラットはいずれも、通常食飼育下でも著しい脂肪肝を呈し、対照ラットに対して肝臓重量で2-3倍、肝臓脂質含量で5-8倍になることを確認した。また両者ともに、インスリン抵抗性、糖尿病、高脂血症等を合併することから、異所性脂肪蓄積の良いモデル動物になると考えられた。また野生型ラットおよびセイピン欠損ラットを、通常食あるいは高脂肪食で飼育し、糖・脂質代謝パラメータ、肝臓組織像、肝臓脂質蓄積、肝臓線維化等を比較検討した。セイピン欠損ラットに対する高脂肪食負荷では、通常食と比較して明らかな体重増加、肝臓のさらなる腫大は観察されなかった。しかし、高脂肪食飼育下セイピン欠損ラットにニコチンを持続皮下投与したところ、脂肪肝の悪化、肝臓の線維化の進行が認められた。これらのことは、生活習慣における喫煙が脂肪肝のNASH進展に寄与する可能性を意味しており、今後の更なる検討に繋がる知見と考えている。
1)異所性脂肪蓄積モデル動物の確立平成29年度と同様の解析を継続する。平成30年度は特に、レプチン欠損ラットについて行う予定。2)糖・脂質代謝調節における異所性脂肪蓄積の病態生理的意義の解明セイピン欠損ラットとレプチン欠損ラットの2種類の異所性脂肪蓄積モデルラットを用いて、肝臓、骨格筋におけるインスリンシグナル、膵臓におけるインスリン分泌能を、個体レベル、細胞レベルで評価する。セイピン欠損ラットは、膵臓周囲の脂肪組織がなくβ細胞内脂質蓄積が認められるが、レプチン欠損ラットは、膵臓周囲の脂肪組織が多くかつβ細胞内脂質蓄積が認められることが予想される。組織学的検討により脂肪分布の詳細を明らかにするとともに、両者の相違点を比較検討することで、脂肪膵の病態生理的意義を明らかにする。また、摂餌制限やレプチン治療による治療介入を行い、異所性脂肪蓄積および糖・脂質代謝パラメータに及ぼす影響を検討する。さらに異所性脂肪蓄積に関わる鍵分子を明らかにすることで、新規創薬ターゲットを見出すことを目標とする。
研究代表者異動のため、ラット飼育数を予定より減らしていた。新たな施設においても研究体制が整っていることから、ラット飼育数を増やし当初の実験計画を変更することなく、実験の遂行が可能と考えている。
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