研究課題/領域番号 |
17K09829
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福原 淳範 大阪大学, 医学系研究科, 寄附講座准教授 (00437328)
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研究分担者 |
大月 道夫 大阪大学, 医学系研究科, 講師 (00403056)
奥野 陽亮 大阪大学, 医学系研究科, 助教 (10534513)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | SDF-1 / 脂肪細胞 / インスリン / IRS-1 / アディポサイトカイン |
研究実績の概要 |
脂肪組織SDF-1の発現制御機構を解析したところ、マウスの絶食によってSDF-1の発現量は増加し、再摂食によって低下した。また肥満マウスではSDF-1の発現量が増加した。すなわち、絶食時と肥満状態の2つの条件でSDF-1の発現が増加した。培養脂肪細胞で解析したところ、高インスリンと高グルコースの条件ではSDF-1の発現量が低下し、TNFalphaによってSDF-1の発現量は増加した。 培養脂肪細胞でのシグナルを解析したところ、SDF-1はERKのリン酸化を誘導し、Aktシグナルは変化しなかった。SDF-1の脂肪細胞機能に対する作用を解析したところ、脂肪分解やアディポサイトカイン発現量に対しては作用しなかった。次に、長期間のSDF-1投与によるインスリンシグナルへの作用を解析した。培養脂肪細胞にSDF-1を添加するとIRS-1蛋白が減少した。mRNA発現量には変化なく、プロテアソーム阻害剤によってIRS1蛋白減少が解除されることから蛋白分化促進によるものと推察された。SDF-1を添加した培養脂肪細胞はIRS1蛋白減少によってインスリンシグナルが減弱し、インスリン誘導性糖取り込みが低下した。 次に、脂肪細胞特異的SDF-1欠損マウスを作成したところ、本マウスは普通食での飼育時の血糖は変化なかったが、血中インスリン濃度が低値であった。インスリン負荷テストでの血糖低下も大きく、インスリン感受性が亢進した。マウスへインスリンを投与し、脂肪、肝臓、骨格筋のインスリンシグナルを解析したところ、脂肪細胞のIRS-1が増加しており、インスリン誘導性のAktリン酸化が増加していた。以上の結果から、脂肪細胞のSDF-1はautocrineに脂肪組織のインスリン感受性を制御するアディポサイトカインであることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
脂肪細胞のインスリン感受性をautocrineに制御するアディポサイトカインとしてのSDF-1の意義を確立することができた。 2018年Diabetes誌に報告することができた。 SDF-1 Is an Autocrine Insulin-Desensitizing Factor in Adipocytes. Shin J, Fukuhara A, Onodera T, Kita S, Yokoyama C, Otsuki M, Shimomura I. Diabetes. 2018 Jun;67(6):1068-1078 他の組織や肥満病態におけるSDF-1の作用も順調に進行している。
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今後の研究の推進方策 |
前駆脂肪細胞におけるSDF-1の作用の解析を進める。脂肪細胞の分化過程においてSDF-1の発現量は低下したことから、SDF-1の低下自体が脂肪細胞分化に重要である可能性を想定した。脂肪細胞分化過程でSDF-1のsiRNAを行い、脂肪細胞分化関連遺伝子や脂肪滴の蓄積、アディポサイトカイン発現の変化、インスリンシグナルの変化について解析を進める。分化早期のclonal expansionや、分化誘導初期マーカーの発現変化を解析する。
全身性SDF-1欠損マウスは胎生致死となるため、Ubc-CreおよびTetO-Creを用いて全身性誘導性にSDF-1を欠損するマウスの作成が進行している。本マウスを用いて、肝臓や脂肪組織、骨格筋における糖代謝やインスリン感受性の解析を進める。前駆脂肪細胞におけるSDF-1が脂肪細胞分化に関与するデータを得つつ有り、本マウスの脂肪組織における作用を解析する。また、肥満糖尿病モデルを作成し、SDF-1の誘導性欠損によって糖代謝が改善する可能性について解析を進める。
脂肪細胞特異的SDF-1欠損マウスに高脂肪高ショ糖食負荷を行ったところ、血糖の上昇が改善し、インスリン抵抗性の悪化が減弱することを見出しており、脂肪組織におけるインスリンシグナルの解析とアディポサイトカイン発現に対する作用の解析を進める。
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