本研究は、プログルカゴンから産生されるグルカゴンおよび種々のグルカゴン関連ペプチドを対象として、質量分析計を用いた新規測定法を確立するとともに動物モデルやヒトのサンプルを用いた解析から正常および糖尿病状態におけるグルカゴンおよびグルカゴン関連ペプチドの動態とその病態生理学的意義を解明することを目的とする。 2019年度は、前年度に引き続き液体クロマトグラフ・トリプル四重極型質量分析計(LC-MS/MS)を用いてグルカゴンおよびグルカゴン関連ペプチドを高精度に同定・定量する方法を検討した。トリプシン消化しない丸ごとのグルカゴンおよびグルカゴン関連ペプチドの標品、前年度において確立した固相抽出法を用いて血中および膵島から濃縮・精製したグルカゴンおよびグルカゴン関連ペプチド、グルカゴンおよびグルカゴン関連ペプチドの標品をスパイクインした血漿サンプルについて質量分析計により同定・定量するための分析パラメータを最適化し、グルカゴンおよびグルカゴン関連ペプチドを検出および定量する方法が確立された。 次に、動物モデルから採取した血液サンプルを用いて、従来の免疫学的な測定法(ELISA)と本測定法との比較・検証を行った結果、同一のペプチドの測定においては本測定法の優位性は特に認められなかった。本測定法は、新規ペプチドなど免疫学的な測定法が確立されていないペプチドの測定や同一サンプルにおける複数種類のペプチドの測定の場合に有用と考えられた。 本研究において確立されたペプチドホルモンの測定法は、従来の免疫学的な測定法では回避することが困難である抗体の交差性の問題が解消できること、複雑なプロセッシングを受けるホルモンでも高精度な測定が可能であることなど、これまでの測定法と比較して優位性かつ独創性が高いものであり、糖尿病を代表とする糖代謝疾患の病態解明と新規診断法確立の基盤となることが期待される。
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