代表者がこれまでに独自に作出した骨格筋特異的β2アドレナリン受容体欠損マウスは、「運動効果に抵抗性を示す」すなわち運動による骨格筋の代謝改善効果が消失したマウスであった。本マウスの解析により、骨格筋のβ2アドレナリンシグナルは骨格筋のエネルギー代謝に重要な役割を担うことを明らかにした。また肥満モデルマウスの骨格筋では、β2アドレナリン受容体の遺伝子発現の低下によるアドレナリンシグナルの減弱を認め、いわば「アドレナリン抵抗性」というべき状態が生じ、肥満を増悪させる一因になっていることも明らかにした。肥満モデル動物の骨格筋のβ2アドレナリン受容体遺伝子プロモーター領域では、DNAが高メチル化状態にあり、これよりβ2アドレナリン受容体遺伝子の発現低下をもたらし、「アドレナリン抵抗性」の原因となる可能性が考えられた。さらにヒト骨格筋生検試料を用いた解析でも、肥満者ではβ2アドレナリン受容体遺伝子プロモーター領域のDNAが高メチル化状態にあることが明らかとなった。さらにこれらの解析をすすめる中で、骨格筋特異的β2アドレナリン受容体欠損マウスは、加齢に伴って骨格筋のリモデリング能が低下し、筋量の減少を認め、サルコペニアを促進するマウスであることも見出した。従来、運動能力の瞬時の活性化に寄与すると考えられてきた骨格筋のアドレナリンシグナルが、体重や骨格筋量の制御、さらには骨格筋のリモデリング能に重要な役割を担い、これらのシグナルの減弱が肥満のみならずサルコペニアの病態形成に関与すると考えられた。
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