研究課題/領域番号 |
17K09839
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
益崎 裕章 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00291899)
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研究分担者 |
高山 千利 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (60197217)
筒井 正人 琉球大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (70309962)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 肥満症 / 動物性脂肪依存 / 脳内報酬系 / 玄米 / γオリザノール / エピゲノム / GABA / 食行動 |
研究実績の概要 |
本研究は高動物脂肪食肥満モデルマウスや細胞などを用い、肥満症の病態基盤として注目される“動物脂肪依存”の脳内分子機構の解明と新規の治療法開発に向けた学術基盤の構築を目指すものである。 本年度はまず、玄米由来機能成分であるγオリザノールによるGABA神経入力からのドパミン受容体シグナル修飾の可能性を検討した。腹側被蓋野(VTA)から投射する神経回路には報酬と嫌悪の相反する2経路が存在し、側坐核(NAc)投射経路は報酬・好みを制御し、前頭前皮質(PFC)投射経路は忌避・嫌悪を制御する。90%以上がGABAニューロンで構成されるNAcにおいて、神経終末に局在しGABA分泌に寄与するGAD65の発現はmRNA、蛋白ともにγオリザノールにより有意に減少することが明らかになった。一方、PFCのGAD65発現はmRNA、蛋白ともにγオリザノール摂取により上昇したGAD67 の発現もGAD65同様、γオリザノールによりNAcで減少、PFCで上昇した。以上からγオリザノールによるGABA神経入力からのドパミン受容体シグナル修飾が依存行動の緩和につながる可能性が示唆された。 次に、γオリザノールによる脳内報酬系のゲノム修飾作用の分子機序を解析した結果、γオリザノールがエピゲノム制御酵素の一つである1型DNAメチルトランスフェラーゼの競合的阻害効果を持ち、動物性脂肪食の長期間摂取によって亢進する脳内報酬系神経核(線条体)の2型ドパミン受容体遺伝子プロモーター領域のDNAメチル化をγオリザノールが有意に減少させ、結果的に動物性脂肪に対する嗜好性を軽減する行動変容が生じることを明らかにした。この効果は、骨髄異形成症候群等に既に臨床応用されているDNAメチル基転移酵素阻害剤5-aza-デシタビンを用いた場合の効果に匹敵するものであり、γオリザノールによる脳内報酬系のゲノム修飾作用が明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請当初、平成29年度計画として掲げた2つの研究課題である γオリザノールによるGABA神経入力からのドパミン回路修飾の可能性の検討、および、γオリザノールによる脳内報酬系のゲノム修飾作用の分子機序解明に関して計画通りに研究が進展した。特に、後者のγオリザノールによる脳内報酬系のゲノム修飾作用の分子機序解明に関しては欧州糖尿病学会誌Diabetologia 2017年8月号に研究成果論文を発表し、同月号の表紙を飾るカバー・ストーリーにも選定され、内外に大きな波及効果を与えることが出来た(Impact of Brown Rice-Specific γ-Oryzanol on Epigenetic Modulation of Dopamine D2 Receptor in Brain Striatum of High Fat Diet-Induced Obese Mice Diabetologia 60:1502-1511, 2017)。 加えて、当初、平成30年度の研究計画として掲げていた研究課題、in vitroアッセイを用いた γオリザノールゲノム修飾作用の分子機序解明に関しても本年度内で概ね、研究が完了し、多数の新たな知見を得ることが出来たため、当初の計画以上に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度は、当初、研究課題として掲げていた、γオリザノール投与によるアルコール依存モデルマウスの改善効果の検証、および、γオリザノールによる腸内フローラ改善と食行動修飾をつなぐ新規脳内分子機構の解明、という2つのテーマに集中して研究を進める方針である。既知の依存性物質による依存症と動物性脂肪による依存症との異同は充分に解明されていないため、動物実験において評価系が確立しているアルコール依存モデルを用い、γオリザノール投与によってマウスのアルコール依存が緩和される可能性に関し、Y迷路、角形オープンフィールド、オペラント箱を組み込んだマウス行動実験解析システムによって検証する。研究代表者らはマウス行動実験解析システムに熟練しており、本研究遂行におけるアドバンテージがある。γオリザノールによるアルコール依存性の軽減効果に有意な差異が認められた場合には平成29年度計画と同様に脳内報酬系における分子生物学的解析を実施する。 また、γオリザノールによる腸内フローラ改善と食行動修飾をつなぐ新規脳内分子機構の解明においては、高動物脂肪食肥満モデルマウスを用いてγオリザノールによる腸内フローラ改善作用・発酵代謝産物の詳細を次世代シークエンサー・メタボロームによって解析し、γオリザノールの投与によって血中で有意に増加する発酵代謝産物の中からDNAメチル基転移酵素やヒストン脱アセチル化酵素などゲノム修飾酵素に対する阻害効果を持つものをin vitroアッセイ系を用いてスクリーニングし、脳内報酬系に対してepigeneticに作用する可能性のある分子(群)を同定したいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由として、本年度の研究に要した実験試薬や備品は、すべて、前年度までに研究室に配備されていたものを有効活用することが出来たため。 平成30年度は、当初、研究課題として掲げていた、γオリザノール投与によるアルコール依存モデルマウスの改善効果の検証、および、γオリザノールによる腸内フローラ改善と食行動修飾をつなぐ新規脳内分子機構の解明 という2つのテーマに集中して研究を進める方針であり、次年度使用額は、解析マウス数を増やしたり、行動学的なパラメータ測定を追加するなど、これらの研究のさらなる充実と遂行に役立てる計画である。
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