研究課題
全エクソームシークエンス解析法を用いて、インスリン分泌低下型の若年発症重症糖尿病家系の原因がインスリン遺伝子のエクソン3との境界から上流31bpのイントロン2に位置する変異であることを明らかにした。変異により新たなスプライシングサイトが生じ、異常なインスリン蛋白が合成されることによりERストレスによるアポトーシスが生じ膵β細胞数が減少する結果、インスリン分泌低下型の重症糖尿病が発症しているものと考えられた(J Diabetes Investig誌で発表)。膵β細胞では、血糖値に比例して細胞内グルコース量およびその代謝により産生されるATP量が増加することで、細胞膜に存在するATP感受性Kチャネル(KATPチャネル)が閉鎖しインスリン分泌反応が生じる。ABCC8遺伝子はKATPチャネルを構成する蛋白の一つであるスルホニル尿素受容体(SUR)1をコードする遺伝子で、機能亢進型遺伝子変異の場合は、KATPチャネルの閉鎖障害によりインスリン分泌障害が生じ糖尿病を発症する。一方、機能低下型変異の場合は、一般にインスリン分泌過剰により低血糖症を生じることが知られているが、機能低下型変異が糖尿病の原因と考えられる家系を2家系同定した。第一家系では、変異はヘテロ接合体状態で遺伝しており、発端者とその父親は、各々、39歳、55歳時に糖尿病と診断、一方、発端者の息子および娘は新生児低血糖症を発症するも薬物治療で改善、治癒、その後、逆に耐糖能障害が出現していた。第二家系では耐糖能正常の両親から各々を受け継ぎ複合ヘテロ接合体状態で変異を有する若年発症糖尿病の兄弟例であった。これらの結果は、 ABCC8遺伝子異常は機能低下型変異もまた日常臨床において糖尿病の原因となることを示唆している。さらに、機能低下型変異による糖尿病症例ではインクレチン関連薬が有効であることを示唆する知見も認められた。
2: おおむね順調に進展している
インスリン遺伝子のイントロンに位置する遺伝子変異による若年発症重症糖尿病家系の存在、機能亢進型に加え機能低下型ABCC8遺伝子変異による糖尿病家系の存在などを明らかにすることができおおむね順調に進捗していると考えている。
現在、原因遺伝子が明らかとなっていない糖尿病濃厚家系を対象に全エクソームシークエンス解析法などを用いその遺伝因子の解明に取り組んでいるが、2017~2018年度に一定の成果が得られたことから2019年度においても同様の方法で研究を続行する。さらに、2018年度より糖尿病学会の「単一遺伝子異常による糖尿病の 成因、診断、治療に関する調査研究」に関する委員会メンバーとして活動を開始しており、他施設とのデータと突合することで研究の推進を図る予定である。
当初の計画時点の概算よりも少ない費用で解析が可能であった。2019年度においては、当初の計画よりも対象とする家系数を増やすことが可能になったことから、さらに、精力的に糖尿病の遺伝因子の解明に取り組みたい。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件)
J Diabetes Investig
巻: Epub ahead of print ページ: Epub ahead
10.1111/jdi.12974